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ある男の010101010101010のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.7
いきなりの、壁にかかったマグリットの絵。
何かと思ったら、最後にここに不気味に回帰する。
私の名前が本当のものだって、どうして分かるんですか…?

窪田正孝の隠された過去が明らかになるのに伴って、ただ温厚で善人にしか見えない妻夫木聡の人物の色んな意味での奥行きもどんどん見えてくるのが、映画の作りとして、とてもスリリングでいい。
柄本明の存在感…。この人が最も怖かったのだが、妻夫木氏のもっとも見られたくないところにズカズカと入り込み、真理を突いてくる。
こういう真理を知ってしまったら、嫌悪感を抱く人ほど伝染してしまうことってあるんよなぁ…。

ヘイトクライム、死刑囚の子供、在日、老舗の後継問題、戸籍交換…、
現代の日本社会が抱えるいろんな問題や、あまり世間には知られていない問題などがひとつの作品の中に見事に収斂しているのは、テーマの守備範囲の広さゆえ。
そこに、家庭内のギクシャクしたところなんかも描かれてくるが、
逆に、シングルマザーの安藤サクラと息子との姿、関係にホッとさせられたりもする、映画としてのバランス感。
また、ずっと消えていた幼馴染(?)との再会のシーンも、すごくよかった。

顔を変えちゃいけない、という温泉旅館の主。
それに対して、
人生をやり直したい、やり直すために、ここまでしなければいけない、という人たちがいるということ。
今の時代、自分が生きていくだけで精一杯で、こういったところまで想像力を向ける余裕のない人も多いかもしれないが、こういった作品を通して少しでも…、と思う。