CHEBUNBUN

雪の峰のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

雪の峰(2021年製作の映画)
3.8
【ルーマニア、全てをコントロールしたい有害な男】
NETFLIXにはオススメになかなか出てこない作品がある。サブスクの時代となって、経営者の頭を悩ませるのは「作品数が多すぎて選んでいる間に時間が経ってしまう問題」である。心理学者の調査によると、選択肢が多すぎると選択に対する幸福度が下がるらしい。それ故か、近年のサブスクやVODプラットフォームはユーザーに作品をなるべく選ばせないようにしている。米国iTunesは従来あったワールドシネマやドキュメンタリーのカテゴリを減らした。MUBIは推しの作品が上位に来るように工夫をしている。Amazon Prime Videoも膨大な作品があれども、機械学習でユーザーが好きそうな作品を中心に表示するように変わってきた。作品はあっても、検索スキルがなければたどり着かない時代となっており、レンタルビデオ時代の思わぬ出会いが感じられにくくなっているのだ。映画の伝道師として、今年はそうした意図的な偶発性に埋もれてしまった傑作を掘り起こし紹介していくことだと思う。今回はNETFLIXにて配信のルーマニア映画『雪の峰』を紹介していこう。

冷え切った夫婦。夫のMircea(アドリアン・ティティエニ)は妻から「どっちにする?」と訊かれても「君の好きな方でいいよ」と選択に関する責任を放棄している。そんな彼のもとに一通の電話がかかる。少し疎遠となっていた息子が雪山で遭難しているとのこと。妻のことは全然気にしていないのに、息子のこととなると急に身を乗り出す。雪山にやってきて、現地スタッフと共に強引に救助活動に参加しようとする。ホテルに行くが満席だと分かると、ゴリ押しで情に訴えて泊めてもらう。極めて自己中心的だ。そんな彼を嘲笑うかのように、天気は悪くなり、現地スタッフも諦め始める。それに対して、「なんで諦めるんだ!」と怒鳴り散らし、悲劇の人という特権をフル活用して傲慢に人々をコントロールしていく。それが原因で、救助隊が雪崩に巻き込まれ大惨事に発展していく。

本作はリューベン・オストルンド映画のような陰惨な人間の悪を描いた作品だ。しかし、彼の作品と比べて「どうだ辛いだろう」と言ったドヤ顔演出が希薄なので、陰惨さが強烈なものとなっている。ルーマニア映画はクリスティアン・ムンジウの映画を始め、陰鬱としたドラマを描かせたら天下一品の国だ。それだけ社会を閉塞感が包んでいると言えよう。本作が鋭いのは、冒頭に妻の選択肢をへし折るシーンを挿入することにある。Mirceaの責任を取らない傲慢さを強調し、さらにすぐそこにいる妻を雑に扱う一方で疎遠な息子に対して干渉していく邪悪さを形取ることに成功している。

確かにダーク過ぎる映画なのでオススメに上がってこないのは納得であるが、鋭く胸が締め付けられる陰惨さに魅了されました。
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