akrutm

幻滅のakrutmのレビュー・感想・評価

幻滅(2021年製作の映画)
3.3
パトロンである貴族の人妻とともに田舎からパリに上京した青年が、詩人としての成功を夢見て魑魅魍魎が跋扈する新聞業界・社交界を生き抜いていく姿とその顛末を描いた、グザヴィエ・ジャノリ監督の文芸ドラマ映画。原作は、バルザックの『人間喜劇』という小説群の中の『幻滅』(の一部である「パリにおける地方の偉人」)。主人公・リュシアンの人物造形にはバルザック自身の経験が反映されていて、その意味でも『幻滅』はバルザックにとってキャリアの要となる作品と言える。

時代は19世紀前半の復古王政期。華やかな社交界の様子や活気あふれるパリなどの映像は本映画の見どころなのかもしれない。個人的には、この時代の風俗や意匠があまり好きではないので、そこは映画の評価ポイントにはならない。野心を持つ田舎ものの成り上がり譚として面白く、こういう結末もありだろう。でも、本作がこれだけ高い評価を(特にフランス国外で)受けているのは不思議である。

まず気になったのが、かなりの部分をナレーションに頼っている点。なぜナレーションが入っているかは結末で明かされるが、それにしてもこれほどナレーションに頼る必要性は感じられない。特にびっくりしたのは、当時のパリの状況を説明するのに5分間ものナレーションが入る前半。これって映画なの?小説を映画化するのであれば、映像や演技で表現するべきでは。こういう演出を見ても、グザヴィエ・ジャノリの作品は本当に合わない。

もう一つ個人的に違和感があったのは、フェイクニュースやステルスマーケティングという現代を象徴する社会問題との関係性を強調している宣伝文句。グザヴィエ・ジャノリ監督が当時と現代に類似性があると思っているのかは知らないが、フェイクニュースだと分かって金儲けのためにフェイクニュースを書くのと、本当であると信じ切ってフェイクニュースを書くのとでは、まったく違うけど。うましかな一般ピーポーがフェイクと思わずフェイクを書いてしまうところに現在のSNSの問題があるのでは?本作(=バルザックの小説)はそんなことが中心テーマではなく、原題どおり「失われた幻想」だと思う。
akrutm

akrutm