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ロスト・ドーターのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

ロスト・ドーター(2021年製作の映画)
4.8
マギーギレンホール(ジェイクギレンホールのお姉さんです)、初監督でこの傑作を撮るとは。
鮮烈なデビュー作!というには余りにこなれていて、手練の職人映画監督がキャリア中期に撮ったウェルメイドな小品といった手触り。


女性が母親になったと同時に課される計り知れない責任の重さ。
一方で自分の目標や夢を叶えたいという強い願い。
同時に二つの役割を全うする事が、どうしても出来ない。邪魔しあってしまう。
引き裂かれるような思い。

ギリシャの風光明媚な海辺の町を舞台にしていながら、どこか薄暗く不穏な気配を漂わせて語られる心理サスペンス。

・部屋に置かれ熟れて腐ったフルーツ(対比としてニーナ娘が食べるオレンジの新鮮なこと!)
・何故か部屋に迷い込んだセミ
・突然落ちて来た松ぼっくりと、背中に付いて消えないアザ。
(まるで過去の罪に対する刻印を押されたかのよう。)
・オレンジの皮をヘビのように長く剥く事。
 作品中に散りばめられたモチーフに込められた意味を考え楽しむ余地も残されている。

消し去る事の出来ない後悔を背負って生きる中年の大学教授レダの現代パートをオリヴィア・コールマンが、
かつて行った辛すぎる決別に至るまでの過去パートをジェシー・バックリーが、
それぞれ好演。
(ジェシーバックリーの、表向きは微笑んでいるけど何か心のうちに居心地の悪さ抱えているような表情がたまらなく良い。)

主人公レダ親子と、ギリシャの海辺町で出会うニーナ母娘。
レダはかつて自力で抜け出した地元コミュニティ(毒親?)の泥沼からぬけだせないニーナに自身を重ね合わせる。
二組の親娘が巧みに入れ子構造になっている。

何故レダはニーナ母娘に固執するのか。
どのような過去がレナを捉えてはなさないのか。
出来心で人形を盗んでしまうレダの危うい心理状況。(結末に繋がる)
過去パートと現代パートを交差させながら、徐々に示されていく過程が巧い。上質なサスペンス映画たり得ている。



子供だからと分かっているつもりでも、遊びで叩いてくる我が子に怒りを覚えてしまう。
夫とのセックスでは毎回、あと1分でいきそうになる時点で夫が先に果ててしまう。
ヘッドフォン装着してパソコンを観ながら、自分で身体を触っている時に急に子供が入ってきて驚く。
子育てに纏るアレコレ、女性の性欲に纏るアレコレが女性監督ならではの視点で切実に描写されている。

【以下ネタバレあり】
最後まで観ると、最初からレダは死に場所を求めてギリシャのリゾート地にたどり着いたように思えてならない。

本当に娘に電話が繋がってたのだろうか。
死ぬ間際に見たまぼろしだったのだろうか。
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