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パワー・オブ・ザ・ドッグのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
2.5
【男らしさが支配する世界】
第78回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、第94回アカデミー賞作品賞最有力と囁かれているジェーン・カンピオン最新作。2021年12月に配信されたものの、なかなか時間が取れずようやく観ることができました。

シャーロック・ホームズやトーマス・エジソンに『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のヴィラン、そしてドクター・ストレンジと男らしい天才役を演じてきたベネディクト・カンバーバッチが有害な男性を描く本作に出演したことが非常に重要な作品だ。特にドクター・ストレンジはヒーローでありながら、自身の勤勉さと身体能力の高さを棚に上げ高慢な態度で接するキャラクターであるので、そのキャラクターを演じた役者が本作を演じることに意味がある。強くて外国語も使いこなせるインテリ牧場主フィルは高圧的な態度で、周囲の人を支配していた。それに対して弟ジョージはナヨナヨしていて頼りない。フィルはジョージを見下している。そこへ、未亡人ローズと息子がやってくる。ローズとジョージは惹かれて結婚するが、息子がナヨナヨしていることもあり、フィルは嫌がらせを強めていく。

西部劇における男らしさを批判する本作は、高圧的な男性の側面をジワジワとあぶりだす作品となっている。しかし、そこを描くことに注力しすぎている気がして物語としては想定の域を出ないものとなっている。リップサービスとしてジョン・フォードの『捜索者』オマージュをやっていたりするが、それは形式的なものである。なので観ていても、男性らしさの有害な側面を並べているだけに見え芸がない。

同じくヴェネツィア国際映画祭コンペティションに選ばれた『ロスト・ドーター』の視線の交差で女性の痛みをひたすら綴る演出が上手かっただけにあまり魅力を感じなかった。私が苦手な映画ってことは恐らく第94回アカデミー賞作品賞は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で決まりだろう。
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