歌代

ベルファストの歌代のレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.2
混乱の時期を舞台にしながらそれぞれの"時間"を描く。素晴らしい傑作でした。

1969年のベルファスト。
物語は決定的な瞬間から始まる。
プロテスタント過激派が街のカトリック教徒を追い出そうと家を襲撃。少年バディはその現場に居合わせ深く衝撃を受ける。

バディの父親はロンドンに出稼ぎに出ており2週間に一度しか帰ってこれない。母
親は、子供2人を実質一人で育て、夫の借金に悩ませる毎日。
バディは自分の知らないカトリック教派に興味を持ちつつも頭のことはクラスの好きな女の子に夢中。
混乱の時期を舞台にしながら、それぞれはそれぞれの時間を生きています。そしてそれぞれが個人的なことを悩み続けている。
これは今の時代でも見覚えがある感覚。
混乱の中にも日常は同居してる。
世界にはあらゆる"時間"が同居しているのです。

しかし、日常の裏で不穏な音が鳴る。

過激派のリーダーは街の人をそれぞれ脅し無理矢理協力させようとするがバディの父はそれを拒む。非常にスリリングです。

過激派はなぜこの街で暴動を起こすのか?
後半は"故郷"に対する感情に焦点を当てていきます。
ロンドンに出稼ぎに行く父親はある日、腕を認められロンドンに住まないかと誘われる。
家を用意してくれるため、一家揃ってこれから住むことができると言うのです。
しかし、妻はそれを渋る。
日常が少しずつ変わりつつあった。

「ベルファストからじゃ"シャングリラ"にはいけないわ」
可能性が開かれたバディともう閉じてしまった祖母の会話が深く突き刺さる。
「お前たちは月に向かえ」

我々は大人になるほどにものを知る。
ものを知っていくうちに選択をしなければいけなくなり、そうすれば自然に別の可能性は閉じていく。
ああ、主人公が子供なのはそういうことか。

この映画は決定的な瞬間を逃しません。 度々スローモーションになる"瞬間"。
クライマックス、あの"瞬間"はとても映画的な答えの出し方でホントに素晴らしかった。

ポールダノの『ワイルドライフ』、ジョナヒルの『Mid90s』に続いて俳優さんの監督する追憶のような作品。今んとこハズレなしの全部傑作!
歌代

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