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ムーンフォールのdm10foreverのレビュー・感想・評価

ムーンフォール(2021年製作の映画)
3.5
【ぽっちゃりだって頑張るもん】

これはまた・・・
最近のフィルマのトレンドをいろんな意味で賑わせている「問題作」。
うん、ローランド・エメリッヒね。
なんとも香ばしい匂いが漂ってきたよ。

なるほど、皆さんが異口同音に仰る「これじゃない感」も理解できるし、かといってクソミソに最悪というほどでもない。
単純に「いろんな意味でバランスが悪い」って感じかな。

基本的に「映像(迫力)は及第点」としてもストーリーや展開がブツっと途切れたりまた繋がったりを繰り返すので、正直言って配信のような気が散りやすい環境で観るような作品ではなかったのかな・・・少なくとも。
かといって、劇場で観たとしても「?」ってなる展開はやっぱり否めず、映像の迫力だけで1900円取られたら「ぼったくり問題」も勃発していたかも・・・
ってことは、一体どの媒体で観るのが正解なんだ!という禅問答に行き着いてしまう始末・・・。

「月が本来の軌道を逸れて地球に堕ちてくる」

この発想自体はとても好奇心を掻きたてられるし、いったいどんなディザスタームービーになるのかな・・・と期待はしていたんだけど・・・。
途中から何が地球にとっての脅威なのかがぼやけてしまったというか、少なくとも「自然の驚異」という点での興味は早々に、それももの凄いスピードで薄れていってしまったのは残念。

やっぱりエメリッヒって、「ID:4」みたいに『はっきりとした悪意(敵)』を前提に描いた上での、それに立ち向かうカウンターパンチ的なヒーローじゃないと描けないのかな・・・。
でも、それって日本の特撮ヒーローの仕事なんだけどな・・・。

にしても、あまりにも対象が漠然としすぎていて「極端に進化したAI」なのか、まわりまわって知的生命体がもたらす「概念の世界」なのか・・・。
いずれにしても、この作品の触れ込みを「ディザスタームービー」のようにプッシュしていた割には、ビックリするくらいに急角度でカーブして全然違う場所に着地してしまったような感覚が残る。

恐らく、そういう変な前フリを抜きに見ればもう少し落ち着いて観ることも出来たのかな・・・。
いや、そうでもないか・・・。

なんせ、キャラクターの設定にも一貫性がないというか、個々のキャラクターにあまり魅力を感じないのは致命的かも。
主人公はブライアン(パトリック・ウィルソン)でいいのかな?
一応見せ場も一番多かったし、最初から彼を中心に物語は進んでいたっぽいし。
その割りに過去から現在、そして新たにミッションに参加するまでの心の葛藤や喪失感みたいなものが殆ど見えなくて、かろうじてセリフで補ってはいたけどあまり深みを感じなかった。
方やジョー(ハル・ベリー)もあの事故の後にNASAの長官代理まで登り詰めたエリートらしさはあまり感じられなかったし、ハウスマン(ジョン・ブラッドリー)に至ってはもっと過去のいろいろを教えてくれないと、「ようやく日の目を見た」っていう光も弱く感じてしまう。
ブライアンの息子っちも反抗期なのかいい子なのかよくわからんし・・・。

そんな感じで主要キャストの背景が結構希薄なのでいまいち感情移入が出来ないまま、気がつけばあっという間に月は地球にかなり迫ってきている。

そう、あれだけの事態が起きているのに、大事な「工程」や「道程」をことごとくショートカットしちゃうから、いろんな意味で「唐突」なのよ。
「え?もうそんな状況?」っていう感じで。
そのスピード感と人類側の対応速度がミスマッチというか、「ハジキの法則(覚えてる?小学校で習った「速さ」「時間」「距離」の関係性)」がぶっ飛んでるんですよね。

もの凄い速度で月が地球に迫ってきていて、月の引力が地球上にあらゆる影響を与え始めるという段階まで来ているのに、NASAはまだ事実をイマイチ認識していないし、認識した後も隠蔽しようとするし、挙句、状況を分析する根拠となる計算すら間違えてるし。
で、肝心の主人公たちは未だにダイナーで「本当なのか?」「信じられない・・」とかやってる段階だし・・・。

そんなチマチマやってるかと思いきや、突然「中国とオーストラリアから技術提供を受け~」って、あれ?俺どこかで寝落ちしてた?ってくらいに話しが飛ぶ。
でもことごとく上手くいかない。
まぁその辺は「パニックムービーの定石」なのでアリとしても、

「最期の手段は、直接月に乗り込んでいって月の内部から奴らを殲滅して・・・・」

・・・いやいや、それ「ID:4」でやりましたやん。
カオス大好きなマルコム博士・・・じゃなくてディヴィッド(ジェフ・ゴールドブラム)という天才エンジニアと、「レッドカーペット・ファイター」でお馴染みのウィル・スミス演じるヒラー大尉が、マザーシップまで乗り込んでどでかい花火をぶっ放しましたやん。

この辺を「ローランド・エメリッヒの限界」とみるべきか、「~の作家性」とみるべきか・・・。

感覚的には、パッケージは毎年若干変わるけど基本的に中身はあまり代わり映えしない「コンビニの季節限定アイス」みたいな感じかな・・・。

ただね、ここまで言っておいて今更なんだけど、導入はホントにいいと思うのよ。
「ツカミはOK」てやつ。
だからこそ、そのまま行けばもうちょっと上手く作れそうなもんだったのに・・・ね。

あと、必ずしもカッコいい人=ヒーローじゃないところは嫌いじゃない。
カッコいいって見た目だけじゃなくね。
生き方(キャラクターの描かれ方)がチマチマした、いかにも「普通の人」が最期に頑張るっていうのも悪くないなって。
誰だって理想は持ってるけど、それを行動できたり実現できる人ってそんなに多くはないと思うんです。
でも、愛する家族に危険が迫っているっていう状況で、普段は情けないお父さんが「ここぞ」で頑張る瞬間はちょっと胸アツではありました。
自分もそうありたいものだな~って。
だから今回のヒーローは間違いなく「ハウスマン教授」だし「トム(マイケル・ペーニャ)」なんですね。
彼らこそが「やらなきゃいけない」ではなく「本当に成すべきこと」を成し遂げた漢だと思います。

そうだよ、この映画にもいいところあったじゃん。
よかった、よかった。

ってな感じで、ローランド監督が「この世の中でこの映画を撮れるのは、俺か、俺以外か」と言ったとか言わないとか・・・よく考えたら、普通の事を言ってるだけなんだけどね。
え?ローランド違い?
・・・失礼しました。
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