このレビューはネタバレを含みます
ビョルンが「ベニスに死す」の出演後に性的搾取に遭う事に重点を当てた映画だと思っていたけれど、そこが主軸では無くビョルン自身についてのドキュメンタリーに近い。
彼が子供の頃、周りの大人の誰にも守られる事はなく、むしろ振り回され、性的な目で見られる辛さは想像もできない。
「ベニスに死す」という作品は、私が高校生だった頃に観てからとても好きになった映画。映像の美しさといいストーリーの儚さ、なによりもビョルン自身がやっぱり美しい。
しかし、この作品を見ていくうちに「ベニスに死す」を美しいと思っていた事に罪悪感を覚える。ビョルン自身からすると、あの作品は嫌悪する対象でしか無いのかもしれない。
だけれど、映画と俳優の背景をしっかり切り離して観るのが映画だと私は思う。
やっぱり、あの作品は、短くて儚い美しさをぎゅっと閉じ込めた、唯一無二の作品だと思う。なので「ベニスに死す」はやっぱり美しい映画だと思ってしまう。
ビョルンの人生はあまりにも生きづらすぎる為、よくここまで生きてこられたなとまで思ってしまう。
後半でビョルンが言っていた「多くを失いすぎると、不思議なことに生きるのが楽になった」という言葉の意味が少し分かるような気がする。
解釈は違うかもしれないが、あまりにも暗くて落ちすぎると逆にその先が一番明るいところへ到達すると個人的に思っている。
想像以上に興味深くて面白い映画だった。