しん

帰らない日曜日のしんのレビュー・感想・評価

帰らない日曜日(2021年製作の映画)
3.3
V. ウルフの『自分だけの部屋』がそっと差し出されるシーン、サラブレッドの後ろ足が颯爽と映し出されるシーン、空想の芝生が広がるシーンなど、お洒落なシーンが満載の映画でした。

若かりし頃の不安定な恋、その恋の行く末を左右する階級や戦争、ありきたりなテーマではありますが、叙情豊かな場面変更と、過去と現在と未来を行き来する構成によって、飽きさせない作品に仕上がっていました。個人的に、最初の靴下を脱がすシーンのエロさもよかったです。

本作のテーマである「喪失」は、映画では定番です。しかし本作ではそれを殊更に強調するのではなく、むしろ文学へと昇華していく姿勢が鮮明です。「喪失」は強さでもあるというメッセージは新鮮で、胸に刺さるものがありました。

また過度に後半生を描かなかったのもよかったと思います。変にウェットにならず、心地よく終盤を迎えられたのは構成の妙でしょう。最高傑作といった評価をする作品ではありませんが、佳作と秀作の間という感じの、見て損はない作品です。

あと原題はMothering Sundayなんですよね。「帰らない」というより「母なる(元体験の)」の方が良かったんじゃないかなと。本作の趣旨としては。
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