れん

ちょっと思い出しただけのれんのネタバレレビュー・内容・結末

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

ジム・ジャームッシュ監督の作品要素を散りばめ、丁寧に引用しながらビターで愛しい恋愛群像劇を描く。時間の使い方がとても秀逸で過ぎ行く時間の残酷性を浮き彫りにし、葉と照夫、この2人の苦くて甘くそして、6年という長く過ごした時間のちょっとだけの鮮やかな瞬間を映し出していく。いくら望んだとしても決して戻ることの出来ないあの頃を断片的に思い出すこと。巻き戻すように時間を逆行させながら進んでいく構造。その輪郭が分かり始めてからの胸のざわめきがえげつない。過去の回想をしながらもそこには過去に囚われている人たちではなく未来に向かって生きようとしている人たちの日常。この普遍的で日常的な空気感にはまさしくジム・ジャームッシュの精神が宿っている。伊藤沙莉と池松壮亮、この2人のきめ細やかな演技、愛しい恋人同士の空気感、色気や芯の強さを醸し出し、素晴らしい掛け合いを見せる。伊藤沙莉の繰り出す鋭く絶妙なツッコミが気持ちいい。エンドロールで流れる本作のインスパイアもとのクリープハイプ「ナイトオンザプラネット」が全身の隅から隅まで染みてくる。何気なく愛しい時間をちょっとだけ思い出して、嬉しくなったり、悲しくなったり、不機嫌になったりする、そして今日もまた未来でちょっと思い出すだけの時間を過ごしていく。鑑賞後感は本当にジム・ジャームッシュ味を強く感じる後味で心地の良さがずっと続く傑作。
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