前髪メガネ

ちょっと思い出しただけの前髪メガネのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.7
怪我でダンサーの道を諦めた照生とタクシードライバーの彼女 葉。

めまぐるしく変わっていく東京の中心で流れる、何気ない 7月26日。
特別な日だったり、そうではなかったり・・・でも決して同じ日は来ない。
世界がコロナ以前に戻れないように、二度と戻れない愛しい日々を、
"ちょっと思い出しただけ"。

クリープハイプの尾崎世界観がコロナ禍に1991年の洋画ナイト•オン•ザ•プラネットに着想を得て書き上げた曲「ナイトオンザプラネット」を松居大悟監督に送ったことでその曲にインスパイアを受け描いた恋愛映画。

まずは”ナイト•オン•ザ•プラネット”がどのような映画作品なのかを簡単に説明すると、1991年に公開されたジム•ジャームッシュ監督のオムニバスドラマで、ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの同じ夜を走るタクシーとその乗客との出来事を描いた作品。
同じ夜、同じシチュエーションだけど5つの街でそれぞれ違いに味わいのある作品です。
これを機にそちらもレビュー書きますので、感想等はそちらで。

作中では葉と照生もナイト•オン•ザ•プラネットのファンだったり、シチュエーションなどにオマージュシーンが多々あるのであらかじめ知っているとニヤリとできます。
もちろん、ナイト•オン•ザ•プラネットを未鑑賞でも十分に楽しめる作品でしたので、今すぐちょい思を観に映画館へ足を運んでいただいても大丈夫です。

さてちょい思の感想ですが、まさに好みの話と好みのプロットでまんまともがきながら鑑賞し、本レビューを書く前におかわり済み。
2021年7月26日から2020年7月26日と”同じ日”を1年ずつ遡って葉と照生の関係性の変化を見せているのですが、出会いから別れの「2人の距離感が縮まって離れていく」恋愛の流れやその変化を現在から過去へ並び替えることで、“思い出”として綺麗な過去として完結させられていた様に感じた。
まさにちょっと思い出しただけな内容。(上映時間はちょっとではなくしっかり115分ですが)
今がどんなに幸せだろうとやっぱりふとした時に過去の恋人だったり思い出だったりを思い出す人は少なくないはずだと思うのですが、パートナーに話すのは憚れても浸るくらいはいいんじゃないかと静かに肯定してくれるようなそんな優しさを感じましたし、幸せそうな照生と葉を見ていたらふと私も過去のパートナーを思い出したりしました。

過去に誰かと初めて観た映画って、大抵は誰といつ頃観たのか私は覚えているのですが、ある種の呪いやトラウマの様に一生記憶に残りふとした時に思い出すのかな。それが恋愛となるとよりさらに。
葉ももし今後ナイト•オン•ザ•プラネットを観る度にきっと照生の事を一瞬は思い出すだろうし、その思い出はそっと残しておいてほしい。
過去を引きずって思い出す訳でもなくふとしたきっかけ、作中ではたまたま立ち寄った劇場で静かに踊る照生を見かけて、フラッシュバックの様に過去に戻っていく作りだったのは良かったなぁ。
何故別れたのか。もとい、どう出会ってどう付き合い始めてどう過ごし、何故別れることになったのか。恋愛の一連の流れを逆回転することによって推測を交えて観ていてとても引き込まれた。
2人の歴史を遡って出会った頃と今現在をオーバーラップさせたシーンはとても観ていて苦しくなったし、関係性の意味合いに気が付いた時はもう震えました。
その後今に時間は戻ってからの葉。ちょっと思い出しても、今が幸せだから過去と割り切っている葉のラストカットは良かった。ちょっと思い出して買って来たケーキも今じゃなく明日食べるのも、一度7月26日を終わらせることで特別な意味をなくしたケーキにして食べる事が今への最大限の敬意で大切にしている証。

伊藤沙莉さん、女優さんとして味があるのはもちろんですが、葉の楽しそうな人柄が良すぎてベストオブ元カノだなと本作を鑑賞して感じました。
また松居監督作での伊藤沙莉さんも観てみたいです。

ネタバレに関わる様な感想はコメント欄に残します!!
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