KnightsofOdessa

ガール・アンド・スパイダーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

5.0
[深い断絶と視線の連なり] 100点

圧倒的大傑作!!前作『The Strange Little Cat』に続く三部作の二作目。今回は前作のプロデューサーを務めていたラモンの双子の兄弟シルヴァンも共同監督としてクレジットされている。本作品は多くの点で前作からパワーアップしている。本作品はマーラ、リザ、マルクスの三人で同居していたアパートからリザだけが抜け出すという話で、引越し先のアパートでの荷物解体作業と元々いた部屋での引っ越し作業が中心となって展開される。つまり前作から舞台は二倍になり、引っ越し前後で近所の人々がぞろぞろと登場するので登場人物も二倍になり、それに伴って交わされる会話の内容も倍増する。それに加え、引っ越し作業をしていることから魅力的な小道具も増えまくり、なんだかんだで犬猫も増えている。しかも、家族ではないことから愛憎という感情の入り乱れが導入され、100分の作品とは思えないほど人間関係が入り乱れる。

マーラとリザの関係性は相当深いものだったのだろう。初日にマーラの唇に出来ていたヘルペスが、翌日にリザの唇にも出来ているという強烈な暗示、そして蜘蛛を介した互いへの触れ合いと見つめ合いを通して言葉無く語られるのは、二人が過ごしてきた時間なのだ。だからこそ、引越し先のアパートでのマーラは常に機嫌が悪く、箱開け作業も家具取り付けも手伝わずに新居の中をブラブラと歩き回っている。リザの母親アストリッドも手伝いに来ているが、彼女はリザよりもマーラと仲が良く、引越し業者の親方ユレクとイチャついている。元の家の下階には、これまた女性同士でアパートをシェアするケルスティンとノラがいて、上階には悪ガキ兄妹が住んでいて(多分兄妹)、彼ら/彼女らも引っ越し作業に参加することで、狭いアパートは狂乱騒ぎへと転がり落ちていく。

本作品のほとんどのシーンは以下に書く二種類のパターンで構成されている。
①人物Aと人物Bが話している→切り返しで人物Cがそれを見ていたことが判明するというパターン。非常にシンプルだが、どちらも徹底してバストショットなので、余計な情報が入らず素直に人間関係だけが広がっていくのが良い。これが一番多く繰り返えされるんだが、人物Cが誰を見ていたのか、どこから聴いていたのか、聴いた/聴かれた結果双方がどういう感情に至ったかという感情及び情報のもつれが多種多様なので、毎度毎度驚かされる。しかも、多くの場合で人物Cは無表情で聴いていて、どこまで聴いていたか、どこから見ていたのかが分からない不気味さと絶妙にマッチした恐怖感が全身を駆け巡る。この"ふとした瞬間の不気味さ"というのは前作から引き継いでいるが、前作で主に母親だけが担当していたこの役目をほぼ全員が受け継いでいるので、人間関係が広がるほどに不気味さが増していく。
②固定長回しの画面を舞台として、フレームイン/アウトを鮮やかに使い分けるパターン。これはここぞという時に登場して強烈な印象を残す。基本的には廊下など細長い空間で人物を重ならないよう縦に並べ、部屋から出てきた人がフレームイン/アウト、奥のドアの開閉で空間の縮小/拡張を同時に行うという実にアクロバティックなセットの使い方をしている。このパターンでは会話は二人以上で行うことも多く、長回しの中で話者と傍観者と部外者が頻繁に入れ替わるのがアトラクションのようで、会話を追うのを忘れてしまうほど鮮やか。

引っ越しという設定は中編『Reinhardtstraße』から引き継いでいる。同作も他の作品と同じく、厳格な画面構成に拘った作品だが、小道具の興味深い使い方をしているのが特徴的だった。それはティーバッグと地図である。本作品でも青髪のウィッグと新居の間取り図を用いて、同作と同様に不変の前者と落書きが足される後者という時間の進み方の違いを強調している。また、元同居人が置いていったピアノも、最終盤で子供たちが不協和音を突然奏で始めることで、画面外での存在感が際立つ。その他、水風船、、家族写真、ジャケットの羽毛、飲み残しの赤ワインなど落下するオブジェクトが多く、マーラの直接的な心情描写として紐付けられているのも印象的だった。

ちなみに、三部作の三作目は今のところ『The Sparrow and the Chimney』という題名らしい。舞台は村に拡張され、期間も三日間になるとのこと。また8年ほどかかるのだろうか?今から楽しみだ。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa