Keigo

名付けようのない踊りのKeigoのレビュー・感想・評価

名付けようのない踊り(2022年製作の映画)
4.2
「脳みそが海に沈んでいくような感じ」
「ああ、幸せ」

あくまでも個人的にとはいえ、この映画を他の映画と並列にどう評価すればいいのか。むしろこの作品に関しては、評価どころか感想を言語化すること自体あまり意味を成さないのかもしれない。それでも言語化する以外に今この瞬間の感覚を保存しておく方法を他に知らないから、今回ばかりは読んでくださる方がいることも脇に置いて、スケッチするように感想を残したいと思う。

映像が綺麗だった。ドキュメンタリーとしてありのままを映すというよりも、あえて映像化するからこその挑戦の意思が感じられた。挿入されるアニメーションにも独特の味わいがあって良かった。

彼の踊りを見ている人たちは皆、真剣な眼差しで見つめている。しかしもし彼がダンサーとして、芸術家として知られていなかったら、道端で突然踊り出した彼の事を見て、あの動きを見て、不審がらずに足を止め、真剣に見ていられるだろうか。周りに誰一人足を止める人がいなくても、自分一人でそこに踊っている彼と対峙して、今目の前に芸術がある、と感じる事が出来るだろうか。そこに芸術の本質的な何かが隠れていると思う。

世界は言葉で出来ていると思う。
言葉が無ければ知覚出来ても認識出来ない。
それなのに、言葉では説明出来ない事象がある。目の前に広がる混沌とした現実を整理して、言葉によってその解像度を上げていっても、どうしても不鮮明な部分がある。それは言葉だけでは不完全だからなのかもしれないと、彼の踊りを見ていて、彼の言葉を聞いて思った。

言葉を経由せずに、身体で直接対話する。
そうすることでしか認識出来ない何か、知覚出来ない何かが、存在しているとしか思えなかった。
Keigo

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