このレビューはネタバレを含みます
スティーヴン・ユァンを観たくて観賞したが、それどころじゃなかった。
ここまで観ている者に「あなたの好きなように受け取ってください」と作者から言われた気になる作品は初めてだったから。
ストーリーが難解なわけでも、アングラ的な描かれ方も、奇想天外摩訶不思議な描写もないし、何が起こるわけでもない映画はいくつか観たが、それらとも明らかに違う。
ただ観終わって「何を感じた?」と問われている気分になる。
「分からない」と言うのも癪だから、好き勝手に感想を記録して、自分なりに気持ちを消化させることにした。
この映画にはホラーを観ているのかと錯覚するくらい不穏な空気が終始流れ続ける。
ほの暗い部屋、きしむ廊下、車椅子が行き来しにくいアパートの構造、建て付けの悪い扉、上階か配管からかの謎の音…
そんな中、笑顔で繰り広げられる家族の会話。
しかし、個人のカット、夫婦のやりとり、家族間の会話から各々が問題を抱えているのが徐々に露呈する。
ところが、その問題を誰も積極的に解決しようとはしない。
互いの問題に深く踏み込み過ぎないようにしている。
そんな様子を観て、この作品は "ホラー ≒ 家族" を描こうとしているように感じた。
私の記憶するホラーは家の中で事件が巻き起こる。
洗面所の鏡に写った自分が勝手に動き出したり、洗面所の蛇口から髪の毛が流れ出てきたり、テレビから人が出てきちゃったり…
"家"とは、日常の安寧が保たれる唯一のセーフティゾーンみたいなもので、その家が舞台となると、自分の安全地帯が突如奪われた気になるから、私はホラーが苦手だった。
私の中でホラーはそういう認識のため、今回の映画が "ホラー ≒ 家族" という意味合いがしっくりきた。
家族の問題は、家の安寧を崩壊させうる出来事。
だから深く踏み込もうとはせず、一定の距離を保ちながら安全性を維持しようとする。
そんな、家族という強固に見えて脆弱的な絆を見せられたと同時に、「じゃあ、あなたの家族への向き合い方はどうなの?」と皮肉混じりに問われている気もして、なんだか居心地が悪かった。