Torichock

メタルヘッドのTorichockのレビュー・感想・評価

メタルヘッド(2010年製作の映画)
4.8
「HESHER/メタルヘッド」

映画に何を求めるか?
きっとそれぞれにそれぞれの思いがあるでしょう。
僕が求めるものは、"神話"なのだろうと思いました。みみっちい新興宗教が崇拝するような神や、苦しい時にだけ頼まれる神でもない。そもそも、神なんていなくてもいい。
それでも、超現実的な存在の強烈な衝撃で、凝り固まったりクサりきっていたものが破壊されて、再構築されるのは、僕にとっては立派な神話なのです。

3年前に鑑賞して、この物語の何かにやられた僕。昨夜、ヘッシャーに何もかも壊して欲しくなり、久しぶりに鑑賞しました。そして、朝もう一回観ました。

自動車事故で母親を亡くしたT.Jと、その父ポール。悲しみと傷に明け暮れる日々を過ごす二人は、一緒に暮らすおばあちゃんに耳を傾けもせずに、ひたすら自分の傷を舐め回す日々を過ごす。
母親が死んだ事故車を手放さなまいと、廃車を買い取ろうと必死に生きるT.Jと、ソファーの上かカウンセリングでひたすら悲しむポール。
そして、寂しい人生に、生きる目的を見つけられずにいるニコールとひょんなことから出会ったTJ。
そんな家族と一人の女性の元に、ヘッシャーというメタル野郎が何故か転がり込んでくる。
ヘッシャーの常軌を逸した行動に最初は振り回され続けるが、そのメタル野郎が彼らの運命を変え始める話。

まず、そもそもの話ですが、キャスティングが最高なんです。
災難ばかり背負うニコール演じるのは、世界一好きな女優、ナタリー・ポートマン。地味で不幸な雰囲気をさすがの演技力でこなしつつ、どことなく漂う母性と少女性(可愛らしさ)のバランスがたまらなく良かったです。
可愛すぎるという意見もありますが、TJが亡き母の面影を寄せると同時に、初恋的な要素も含む必要があったと思うし、僕はアリだと思います。そもそも、製作に関わっている時点で、彼女ナシでこのクオリティが出来たかどうかもわからないので、絶対に彼女じゃなきゃいけなかったと思います。吹替えも、安定の坂本真綾です、オッケーい!
ヘッシャー役のジョセフ・ゴードン=レヴィッドですが、これも筋肉隆々のバリバリのメタル野郎だったと想像してください。ジョセフ・ゴードンの優しい雰囲気だからこそ、何をしでかすか分からない突発的で破天荒な破壊行動にエッジが効いたと思うし、筋肉隆々のメタル野郎×ナタリー・ポートマンだと、北欧神話のどっかの神様の話みたいになりかねないので、回避の意味でもこれはアリでしょ!
終始出ずっぱりの、TJ役を演じたデヴィン・ブロシュー君の演技と力強さには、本当に頭が上がりません。
子役として分類するよりも、一人の俳優として素晴らしいキャラクターでした。
父親のレイン・ウィルソンもたまりません。基本は"SUPER!"と同じなんですけど、部屋にいて薬を飲んでいるだけ。でも、そんな彼だからこそ、最後の解答への導きが、優しく包み込むような愛を感じるんですよね。
そして、影の主役おばあちゃんを演じたパイパー・ローリーさん。
なんと、初代"キャリー"のマーガレット(基地の外のお母さん)だったんですね。
劇中で最もヘッシャーと心を通わせた彼女。
彼女だけは、ヘッシャーの常軌を逸した行動をするメタル野郎としてではなく、ヘッシャーがこの破綻しかけた家族を救う救世主であることを知っていたかのように、ヘッシャーをTJの友達として認めていました。

本作を観て思うことは、ヘッシャーという人物の実在です。
何度も見て思ったのですが、ヘッシャーはきっと実際には存在しない想像上の存在でも良かったのかもしれない。いや、全て壊して0にして、ワンスアゲインすればいいということを知っていた、もう一人のTJやニコールという存在でも良かった。
それを示すかのように、ヘッシャーが劇中で破壊しまくるものは、TJが固執する母親が死んだ車を象徴とする過去や、今の自分に閉じ込めようとするいじめっ子や家庭などの環境だったり、ニコールが望む普遍的な幸せが、資本主義でぶくぶくに肥えたのを象徴とする大きなプール付きの庭や車や、それを当たり前とするガミガミオヤジといったものなんです。

ヘッシャーは常に今を生きている存在。
つまり、ヘッシャーは常に目の前にあるものを食べ、糞をし、ヤる。すなわち、超現実的な前向きの姿勢なんですよね。
だから、ヘッシャーにはおばあちゃんと向き合う力があったんです。
目の前のことを大切にできない、もしくは喜びを感じれない人間に、希望なんて来るか!と言わんばかりに。
だから、胸を打つんです。

おばあちゃんのセリフを思い出します。

Life is like waking in the rain.
you can hide and take cover, or you can just get wet.

人生は雨の日の散歩
雨を避けて身を隠すのもいいけど
雨に打たれて濡れるのも自由なのよ

これは、ヘッシャーと同じ精神が生きているように思えたのです。
人生における、苦悩や挫折、途方も無い悲しみや絶望があろうとも、

知ったことか、F U C Kなんですよ。

今年、様々な映画で大切な要素になった、Fu Ckの精神がここにあったし、ヘッシャーに背中にもあったんです。背中で語っていたんです。

だからあの親子が、前向きな存在すなわち、今目の前にあること全てから逃げ出さず、前に向かって生きることと、それをずっとしていたおばあちゃんとの約束を果たす瞬間に、僕はボロボロに涙を流しました。

ラストシーンの、そんな親子のために、ヘッシャーらしい最高のプレゼントもクスリと笑えるけど、なんともクールで優しい終わり方なんだろうと感涙しました。
そして、この先何があっても、F U C K Y O U精神を忘れず、TJのように、何回車に跳ねられようとも、立ち上がってやろうと心に決めました。
本作は僕にとって、"SUPER!"と並べておきたい、魂の置きどころとも言えるほど大切な一本だったんです。


HESHER was Here!!!

最後に、一つだけ聞いてください。












プッ
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