マインド亀

キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのマインド亀のレビュー・感想・評価

4.0
●2011年にニューヨークで、無実の黒人が白人警官に射殺されるまでの90分間をリアルタイムで再現。
なぜ再現かというと、主人公と救急医療センターのライフガードに録音された会話や、医療用警報器に録音された警官とのやりとり、警官の証拠用カメラなどの証拠となる素材が残っていて、これを時系列に組み立て映画として再現したからです。制作したのはかの名優モーガン・フリーマン。いつまでも無くならない警察の黒人差別や、社会的弱者への偏見に対して立ち上がったのです。

●この映画、警察が自宅前にいて、不当にドアを開けろ、開けないのやり取りの90分間がリアルな時間で描かれます。
そもそもが、主人公ケネスの心臓の異常を察知した際に自動的に救急医療センターに通報される装置の誤作動が発端。医療センターからも通報の取り消しが入ったにも関わらず、なぜ彼は殺されなければいけなかったのか。
もしかすると映画を鑑賞した方々には、ドアを開けて警察に無事を伝えれば済んだのに…と思われた人もいたかもしれません。
しかし、ケネスは双極性障害(躁うつ病)を患っており、本来なら安否確認の際にはそれ相応のケアが必要なのです。
いや、ドア越しに「大丈夫ですか?」「大丈夫です」のやり取りで十分なはず。しかし警官たちは「精神的に不安定」「黒人の元海兵隊」「犯罪者しかいない地域だ」という情報だけで、彼を危険人物とみなし、ドアを開けさせることこそが目的となってしまいます。
ドアを開けさせようとしてガンガン叩くこと自体が補聴器をつけたケネスにとって激しい頭痛で苦しみます。
また、おそらくケネスは警官の黒人差別について何らかの具体的経験を持っており、その経験からか、家族が助けに来ることを良しとしません。
そう、黒人にとっては、警察に目をつけられることこそが命の危険なのです。
日本人の我々はこのことを理解するのはおそらく無理でしょう。しかしどの国の警察官であれ、人間の偏見を取り除くことは不可能だと思うんですね。職業や収入、住んでる地域や年齢で疑われることもある。特に日本の警察は「刑事のカン」という悪しき美意識で冤罪も不当な取り調べもある。
だからこそこの映画が作られる意義があり、観るべき意義があるのではないでしょうか。

●この警察がこの事件を起こしてしまった主な間違いは

・姪が様子を見に来たときに「自分たちで対応する」と返してしまった
・ライフガード社の通報取り消しの措置を完全に無視してしまった
・新入りの「相手が精神障害ならマニュアル通りこちらが待つべきです」という意見を無視してしまった
・心臓疾患の相手がいるのにテーザー銃を装備させた
・そもそも家に押し入って推測で捜査する権利などない
・頭が悪くて偏見まみれの警官を警官にしてしまった

というか、そりゃ現場で命を賭けた警察官達ですから、マニュアル通りの正しい捜査の手順などが通用しないこともあると思うんですが、そもそもそこには「俺たちに従わなければ力尽くで平伏させてやる」という暴力を正当化できる悪しき権力者の意識がかなりあったと思います。そして男性特有のクソみたいなプライドも。そうでなければ姪が来たときに、普通に姪にドアを開けるよう説得させればうまく行ったかもしれないはずで……

●とにかくこの作品は警察による不当な逮捕が胸糞だというだけの映画ではありません。自分の身にも起こり得るかもしれないこと、そして自分の中に偏見がないかと思うことを再確認する映画です。そして何より警察にドアを開けられる、というだけで90分のサスペンス、そして恐怖の体感型ホラー作品にもなっている、恐ろしく良く出来た作品です。是非閉塞感のある劇場でご鑑賞ください!
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