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フィンチのmasososoのレビュー・感想・評価

フィンチ(2021年製作の映画)
4.0
太陽フレアでオゾン層が破壊されて危険な紫外線に晒されたそんな近未来の世界が舞台。
至る所で危険な自然災害が起こり、世界に残された物資も乏しく、僅かに生き残った人類は荒み信用ができない。
主人公のフィンチ自身も加齢と放射線被曝症に侵されボロボロ。
そんなフィンチが新天地を求めて愛犬とロボットを引き連れて旅に出るというロードムービー。

この作品人間はフィンチ唯一人しか登場しないのにすごくセンチメンタルで感情の機微を上手く捉えてくる。
トムハンクスは一人芝居がうますぎる。
この哀愁を作り出してるのは絶妙なパーティーメンバーなんだよな。
本来心を持たないはずのロボットのジェフはなんとかフィンチの力になろうと奮闘するも空回りを繰り返す。あのポンコツボイスが逆撫でてくるんだよな。だけどあからさまに落ち込んで膝を抱え込んだりしてすっごく人間臭い動きをする。そんな彼に対してフィンチも怒りと罪悪感の間で葛藤する場面が何度もある。フィンチは犬の世話のためだけに作ったなんて捨て台詞も吐いていたけど、人との信頼関係を築けなくなった世界で唯一言葉を交わせる相手って重要だったと思うんだよな。話し相手が欲しくて作ったってのが本心なんじゃないだろうか。
絵葉書の件で父の文字を口にした時にふと思った。ジェフにとってはフィンチって父なんだよな。感謝の握手の後にハグをするジェフ、彼にとって最初で最後の父親への甘えだったのかなって思ってる。
そして物を言わないはずの犬のグッドイヤーも露骨な態度で感情表現してくるし。グッドイヤーとジェフの関わりは作品の重要なファクターになってる。
死期を悟ったフィンチがグッドイヤーのボール遊びの相手をジェフに引き継ごうとするシーン...あんなん泣くやん。何回やってもフィンチの下に戻ってくるグッドイヤー。犬は習慣の生き物だなんて言ってるけど習慣じゃないやん、絆やん。

救いのないことはずっとわかってたんだけどもう少し未来に希望があれば道中の彼らのささやかな触れ合いを余裕もって楽しめたんだけどなー。
でもラストシーン「いい景色だ、これがフィンチはこれを言いたかったんだな」って軽やかに話すジェフに救われる。悲観の物語ではなく、ジェフにとっての素敵な最初の体験の物語なんだよな。


好きな演出
フィンチは「体験」の話をジェフにしていた。ジェフはデューイとの探索の時もラストのゲートブリッジでのセリフもだけどフィンチの口ぶりやセリフを真似て話す。
最初の会話でフィンチから口真似を注意されていたけど、一番最初の真似をしてみろっていう指示を愚直に貫いてることとか彼にとっての体験はフィンチとの触れ合いが全てなんだなって思わされて涙腺殴られた。
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