おーもり

雨を告げる漂流団地のおーもりのレビュー・感想・評価

雨を告げる漂流団地(2022年製作の映画)
4.5
スタジオコロリドは本当優しい。
過去作もずっと、不器用な大人と、それに気を使う子供を描いてきた。
子供だけが知ってる世界の秘密で、かけがえのない何かを得て成長する。大人には言えない秘めた感情に手を差し伸べている様に感じる。
それを夏の冒険として描かれる感動。
ワクワクとスペクタクルもあり、登場人物達の想いが発露されるシーン全てで泣きじゃくってしまった。間違いなく最高傑作。

この漂流生活はファンタジーじゃない。食料は尽きるし、血が流れ命の危険が迫る。
性格も育った環境も違う子供たち7人が、極限の環境で、ぶつかり、喧嘩し、意地を張り合う。
航祐と夏芽、姉弟の様な関係、2人が秘めた後悔の記憶の行く先。
譲と大志コンビのしっかり者とやんちゃなムードメーカーが頼もしく嬉しい。
正反対な性格にも見えるが、互いに支え合う令依菜と珠理の友情も良い。
そして謎の少年、のっぽ君の秘密。
全員が旅の中で活躍し成長する。脇役不在の感動があった。

終盤に明言されないが分かる漂流の意味。この団地はどこに向かい、何の旅なのか。
都市の新陳代謝は意外に早い。
1960年代オリンピックに向けて開発された都市。2022年、渋谷や新宿には新たなランドマークとなる高層ビルが次々と生まれると同時に、馴染みの建物の取り壊しが進んでいる。
何かを手放し別れ、次に進む。を繰り返す。オトナになる上で、必ず経験し、折り合いをつけなくてはならない感情がある。
過去と未来、その狭間で生きる上では、行く先を選び取らないといけない。
まさかこのテーマに行き着くとは思わなかった。

そして劇中で繰り返し、問い答える「大丈夫なのか?」「うん、大丈夫」のセリフ。
ほんとうは誰も彼も、全然大丈夫なんかじゃない。
強がって嘘ついて、他人に迷惑をかけないように心のうちに秘めておけは、皆は大丈夫になるはず。
本当の大丈夫は、もっとずっと奥の方にあるんじゃないのか。
きっとこれは”天気の子”に対する問いかけだ。

「世界の終わりがきたって大丈夫だ。だって僕と君なら一緒に乗り越えられる筈だから。」と、宣言する"天気の子"
「僕も君も弱さを抱える人間だ。でも悲しみを共有し、頼り合える人がいるだから大丈夫。」改めて他人に問われたとき、その答えを確かめあう様に向き合う視線で終わる"漂流団地"
同じようで明確に違う。
うまく言語化できないが、これらのテーマの描き方が丁寧で温かい。本作をみた子供たちはなにを思うのだろう。

スタジオコロリド。間違いなく日本の娯楽大作アニメ映画の一角を担うスタジオだ。マジで今後の作品も楽しみ。