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聖闘士星矢 The Beginningのしののレビュー・感想・評価

聖闘士星矢 The Beginning(2023年製作の映画)
3.0
パッと見でめちゃくちゃ安っぽいルックとかは流石にないし、物語も大筋では王道のヒーローオリジンだし、アクションなんて割と頑張っている。しかし観終わってみると「この主人公は何でこうなって何をした?」がよく分からない。むしろ途中の変な演出が目立つ。単純に映画として詰めが甘い気がする。

これはすごく不思議なのだが、例えば第一段階の変身は割とキメ画で撮るのに、完全体への変身はドサクサ紛れな感じで撮っていて、ツボを押さえたいのか外したいのか不明だったりする。こういう、監督の脳内に何人か居るの? みたいな落差が度々あり、致命的な破綻はないものの観ていて不安になった。

他にも、物凄くカッコよくアクションを決めた後に絶対に不要な弾切れシーンがあったり、ヒロインの母親のピンチに駆けつける瞬間をぬるっと撮ったり、修行シーンのモンタージュに微妙に切れ味がなかったり、なんか……いまの何? みたいな薄い違和感が続く。居心地が悪い。

汚れ感があったりなかったりするのも気になる。クライマックス手前でとある事件が起こった瞬間以外は、基本どんなに殴られても顔面がずっと綺麗だ。聖衣も冒頭で提示されたビジュアルと乖離しているというか、コスプレ感が否めない。しかしセットの密度は頑張っているという謎バランス。

物語に関しても、そもそも主人公が聖闘士になるかどうかと悪役を止めるかどうかの話があまり繋がっていないので、成り行きでオチがついたようにしか見えず。一方、悪役にしてもフワッとした思い込みで行動していて、しかもそれが終盤までブレないし、かと思えばいきなりもうひと展開あったりするので偉くボンヤリした話だなと思う。

他にも、修行をSWかって位に途中で投げ出すわりにその先で発生するイベントがそれかよ(しかも投げ出しへのフォローなし)とか、そもそもパワー使うと探知されるってさっき言ってなかった? とか、父親の謎行動何? とか、ライバル聖闘士がクライマックスで唐突に出てきて唐突に去った! とか、その割に母娘の話は決着後もウダウダ続けるのか……とか、何? 原作準拠云々の問題は置いておいて、そもそも作り手にこの壮大な世界観を支えるほどの力量がない感じがする。個人的には、聖闘士やら小宇宙やらが一切関係ない一番最初の地下格闘技の辺りが一番良かった(身の丈に合っていた)かな……と思ってしまった。

日本原作の作品を、少なくとも日本よりは予算のある海外で実写化していただいた作品として観に行ったら、お出しされたものが「遠目で見ればアクションが派手で王道なヒーローオリジンなのに、近づいて見ると低予算ハリウッドB級映画になる」という不思議な作品だったのは何とももどかしい。
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