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リコリス・ピザのsomaddesignのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
5.0
1970年代、ハリウッド近郊、サンフェルナンド・バレー。高校生のゲイリーは証明写真の撮影に来ていたカメラマン・アシスタントのアラナに一目惚れ。「君と出会うのは運命なんだ」と、強引なゲイリーの誘いが功を奏し、デートを重ねる二人。ふたりの距離は徐々に近づいていくのだが……。

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なるほど、さすが「『じゃない方』じゃない方」でお馴染み天才・ポール・トーマス・アンダーソン。多幸感と危うさいっぱいの恋愛映画で、終始不穏なバランスで物語が進む。初見の感想は「さっぱり訳が分からない」に尽きる。
賢しらな理解や読解は捨てて、浴びるように見るのが正解なのかも。

モチーフ?元ネタになってる「初体験 リッジモンド・ハイ」未見。古き良きハリウッドが下敷きになってるのはなんとなく分かるものの、イマイチ追いきれず。選挙事務所を見張る君の悪い男が「タクシードライバー」オマージュなのは分かったくらいで(タクシードライバーはNYが舞台だけど💧)、他の元ネタはわからんかった。
手練れの巨匠が、勝手知ったるご近所さんを集めて、肩の力を抜いて作った感。地力の高さっちゅーのか、そもそもセンスの高さがビシビシ出てて、ドレスダウンのかっこよさが滲み出る。(90年代のキメキメ全盛期にあえてTシャツ・ジーパンでデビューしたPUFFYみたいな)

恋人未満な間柄での駆け引きっていうか、恋愛マウントの取り合い?が主で、まだ何者にもなれてない二人が、素直になりきれない姿が痛々しくもフレッシュで見ていて気持ちがいい。
もっとこう童貞をこじらせた映画かと思いきや、ちゃんとゲイリーがモテてるのも良くて、クズっぽい振る舞いの一方、戦利品のように女性を扱わない倫理観が現代的で面白い。

二人がつかず離れず、お互いを「パートナー」と認めつつも決して一線は超えない。友人よりは親密だけど恋人ではない。距離が近いからこそ、なんとなくマウントを取り合う。互いの関係性の上下を決めるってより、SNSの「幸せ自慢」のよう。互いに互いの気を引きたい気持ちと、吹っ切りたい気持ちがごちゃ混ぜになってる感。

とにかくよく走る。言葉にできない気持ちを疾走シーンのメタファーにしてて、シーン毎に「いても立ってもいられなさ」のベクトルが変化したり、円環して戻ってきたり。ままならない気持ちがアチコチぶれまくる様が見てとれる。


ご近所さんから現在の嫁(事実婚)のマーヤ・ルドルフまで、PTAと馴染み深いメンツで固められてる。
主演のアラナは三姉妹バンド「ハイム」のメンバーで、PTAのご近所さん。長く知り合いってこともあって彼女たちのPVをPTAが撮ってたりもする間柄。
ハイム三姉妹どころか一家総出演笑う。末っ子アラナを筆頭に、エスティもダニエルも名前や関係そのまま出演。両親までそのまま親役で出演してるの面白いし、演技経験乏しいはずなのにちゃんと演じてるの面白いやらすごいやら。


ゲイリーを演じたクーパー・ホフマン。どことなく見覚えある佇まいだなーと思ってたら、PTAの盟友にして名優フィリップ・シーモア・ホフマンのご子息。若くして亡くなった親友の子供を、自身の映画にフックアップするのがすごいし、ちゃんと期待に応えてるクーパーの演技力もすごい。主役二人が映画初体験なのに、それぞれの魅力をバッチリ引き出して見せるあたり、PTAの天才っぷりなのかも。

カメオ出演で一番のサプライズは、ウィッグ屋のオーナーでウォーターベッドの販売も手がける長髪のおっさん。演じたジョージ・ディカプリオはレオナルド・ディカプリオのお父さん。PTAが作品のイメージスケッチを描く中で、「この役、誰かに似てるなーって考えてたら、ある日、レオのお父さんだ!って閃いて」。その後、どうにかして連絡先を突き止めて、映画出演の快諾を得る。シナリオを説明する中で「僕が昔ウォーターベッドの会社を経営してたってレオから聞いた?」と問い返されたそう。まさに運命的。
ちなみにレオナルド・ディカプリオは父の映画出演を喜び、「ドント・ルック・アップ」のプレミアに登壇した折「まだ見ていないんですが、父のジョージ・ディカプリオがポール・トーマス・アンダーソンの作品にカメオ出演してるんですよ! なんていい日なんだ」と誇らしげだったそう。いい話だ!


余談)
それにしても原題「Licorice Pizza」。69年〜80年代後半にかけてカリフォルニア南部に展開していたレコードチェーン店にちなんだタイトルだそうだけど、リコリスの乗ったピザは正直遠慮したい。なんかこう、子供のご馳走と大人な味わいが同居した感じもして素晴らしいタイトルだと思った。

52本目
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