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ヴェラは海の夢を見るのakrutmのレビュー・感想・評価

ヴェラは海の夢を見る(2021年製作の映画)
3.7
コソボの男性優位社会を背景に、手話通訳士で生計を立てる中年女性ヴェラが、田舎にある持ち家の権利を巡って自殺した夫の親族や借金取りたちと対峙する姿を描いた、カルトリナ・クラスニチ監督の長編デビュー作となるドラマ映画。

私が理解できていないだけかもしれないが、ストーリー的にはよくわからない部分があった。作品紹介のあらすじでは、自殺した夫がギャンブルで多額の借金を抱えていて、持ち家をそのかたにしていたことが発覚するとあるが、個人的にはそんなふうに描かれているように思えなかった。本当にそうだとすると、夫の親戚がなぜ家を譲渡しろとしつこく迫るのかがよくわからない。そうではなくて、その親戚が多額の借金を抱えていて、見かねた夫がその家で精算しようとしていたのではないのだろうか。夫の親友の立ち位置もイマイチ不明なのも、もやもやした。

まあでもそんな細かいことを考えずに、ヴェラの凛とした佇まいを見るべし。男性に頼らずに自分自身で生きていける社会的に自立した女性が、女性が家を相続するなんてありえないという村の長老の言葉が象徴するような男性優位社会に毅然と立ち向かう姿には、多くの人が共感できるだろう。さすがに今の日本ではこれだけの男尊女卑的な考え方はしないだろうと思うかもしれないが、日本のジェンダー指数の低さを見る限りでは、表に出ないだけであって、深層心理的にはコソボ社会とそれほど変わらないのかもしれない。そんなことを考えさせられる作品である。

一方で、母と娘の会話から、ヴェラも完璧な人間ではなく、娘に対して厳しく(ある意味でマチズモ的に)接していたことも暗示されている。そんな現実感あふれる人物造型も、カルトリナ・クラスニチ監督や子供の頃からの友人であるドルンティーナ・バシャの脚本が優れている証だろう。また、ヴェラを演じたマケドニアの舞台俳優であるテウタ・アイディニ・イェゲニの演技も称賛されるべきレベルである。タバコを吸うシーンが多くあるが、彼女自身もヘビースモーカーだとのこと。建設中のハイウェイを丘で見下ろしながらタバコを吸うシーンが印象的。
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