みほみほ

母の聖戦/市民のみほみほのレビュー・感想・評価

母の聖戦/市民(2021年製作の映画)
3.7
🇲🇽2024年116本目🇲🇽(字幕)

これがメキシコの実情。

ラストをどちらとも取れるよう曖昧にしたのは、メキシコの惨状に憤る中で映画として出来るせめてもの抵抗に思える。

母の目に映ったものは果たして…

実際モデルになった方の末路を知るとどうにも暗い気持ちになってしまうのだが…映画の中の母の行く末は安らぎに満ちていると信じたい。

麻薬カルテルからの報復を恐れ、家族を連れ去られたり脅迫されても 知らぬ存ぜぬ で成り立ってしまう街も悲しいけど、機能しない警察どころかそこに根深く蔓延る市民をも巻き込んだ混沌に絶句。

いくら恐怖で支配するとは言え、四方八方に根回しする前に誰かがどこかで正義を見せてくれそうなものだけど、裏切りともなれば麻薬カルテルがどんなに残忍なことをやってのけるのかを知っていると、ここまで卑劣な犯行が成り立つのも頷ける。

街の人々の反応も当然と言えば当然なんだけど、そのような世界の中でも娘さんへの思いだけで抗い続けることが出来る母の念の強さには恐れ入る。同じく母親になっても、そんな恐怖に立ち向かう勇気が自分にはあるだろうか…

母とは対照的に、喚くわ怒鳴るわと身内では偉そうに振る舞っている割に、肝心な時は行動も何も出来ずに泣くだけの父。きっとあのタイプの人は目の前の苦しみを直視しようとしないから、できれば考えずに忘れたいと酒に溺れがちで、(それまでの振る舞いはともかく)多くの人が闘う母ではなく父のようになりがちだと思う。ここで改めてあの母の強さが分かる。

劇中の軍の介入はフィクション色強めだったけど、あれだけの敵にはこれくらいの激しさで行かないと無理だよねとも思うし、話を聞き出すどころか人を簡単に殺めてしまうやり方に怒りと疑問しかなかったし、これでは冤罪の人が簡単に命を奪われることが横行してしまうのではと複雑。

あの状況で唯一、母の無念に向き合ってくれた中尉の存在は心強かったけど、娘がどんな経緯で組織と結びついたのか単なる誘拐だったのか、重要なヒントになりそうなワードを聞き出すこともなく命を奪ってしまうなど言語道断。あまりに杜撰過ぎてこれまた絶句。

口が裂けても正義とは言えないけど、あれだけのものを相手にしていたら、秘密裏にここまでやってしまう心理も理解できるとはいえ…ただの復讐でしかなく、娘の行く末に結びつく証言も得られず…中尉の存在はあくまで母の無念を晴らす為の協力者なだけで、犯人を捕まえるのとはまた別の話で個人的な暗躍ということなのかな。

メキシコというとタコスやら陽気で楽しげなイメージを想像してしまうけど、ビジネスの為とはいえここまで残酷になれるのは何故なのか。

やはり見せしめの意味が強いのかもしれないが、敵対するカルテル同士ではなく一般人に矛先を向けて誘拐をビジネスにしてるっていうのが腐りきってるし、罪悪感を微塵も感じさせない組織の一味の顔つきがやばい。(役者さん凄い)

少し前まではこういった作品に触れた時、日本に生まれて良かった…と安堵することが多かったけど、昨今の現状を踏まえると自分の国も不安定になってきているのをひしひしと感じるので、ここまで残酷な後始末はしないとしても似たような犯罪が増える可能性あるから恐ろしい。

日本でもみかじめ料なんてものがあった時代もあるけど、そのさらに上を行く麻薬カルテルが実質支配するメキシコ。その中でも命懸けで声を上げるジャーナリスト等もいて、本当に勇気ある人だと思う。この映画を作った人達や役者さんのことも心配になってしまう。

警察が賄賂貰って悪いことするのは日本でも実際事件としてあるので、よその国のことを強くは言えないけれど…犯罪者に加担してしまうような警察官が当たり前にそこらじゅうにいる国でなくて良かった。

どこの国も警察と司法が真っ当に動く世界であってほしい。カンボジアとかフィリピンとかタイあたりが日本人の犯罪者の温床になっているようなので、世界的にも少しずつ変わっていけば…とそう願うことしかできない。

麻薬カルテルが衰退して、人々が平穏な暮らしを営める日が来ますように…
みほみほ

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