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マイスモールランドのyassoonのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.2
川和田恵真監督と西川美和監督のトークイベント付きの上映回にて鑑賞。試写会以外でこのようなイベントがセットになってる上映に足を運んだのは初めて。作品を観終わったばかりの新鮮な印象のまま、監督さんの制作に関する話が聞けるのは素晴らしい機会だなと思った。

難民に対する日本の対応の仕組みや社会の構造を非難し自分がスッキリしたところで思考停止、目を瞑り問題そのものも無かった事にする。その行為自体が本作のセリフで繰り返される「しょうがない」に繋がるのだろう。実際、本作に出てくるのは非難も当然な制度なのだけれども(難民申請の通し方とか、仮放免のルールとか意味が分からない)。

登場人物の中の、多数派である日本の人達は(一部を除いて)善意からサーリャと一家に何かしてあげたいと思うものの、関わり合いをもって自分が不利益を被るのでは?という恐れから何もできないでいる。「あなたが真剣に考えてないだけ。実は小さくても出来ることがあるよ。」と常にスクリーンからメッセージをもらってる気がした。

恥ずかしながら自分も「クルド」という国があると思っていた派なので、聡太くんと一緒にクルド人が難民になった経緯などを学ぶ。川和田監督はストーリーの中に説明を自然に入れるのが上手いと感じた。観客を迷子にしないというか、スッと中身が入ってくる。対比も見事で、サーリャのドイツ人エピソードの後にロビンの宇宙人の話を持ってきたり。

キャストもサーリャとその家族が本当に良かった。妹の不貞腐れ具合は上手いし、たどたどしいロビンくんのセリフも好き。自分の判断で出来る限りの事をしようと思った颯太くん最高だし、藤井隆さん良い具合にウザい嫌な感じ出してるけど、心は悪い人じゃないと思えるし、役所の人の意思疎通無理なやり取りに呆れたし、パパ活おじさんマジ最悪だし、コンビニのお客さん『感覚が2022年にアップデートされずに、ああいう事を悪気なく言っちゃうお年寄りいるよなー。』とか、登場する人それぞれにその都度具体的な感想持てたのも、キャスティングの絶妙さからだと思う。

悲惨な現状ばかりを描いて同情させるのではなく、遊ぶし食べるし呑むし踊るし笑い合う、我々と変わらない暮らしを営む難民の人達の日常を伝えることで、余計に『じゃあなぜこの人達はこんな酷い目に遭わないといけないの?』と疑問を持たせる。とにかく考えさせ、アクションを起こす必要性を(直接的にではないけど、確かに)訴えかけてくる。

危険で辛い仕事を海外から連れてきた人にさせて、薄給で搾取し、十分な保証もないまま日本から帰国もできない状態を作る技能実習制度とか、現代の奴隷制のようなこともやってるし(その人達の力を借りなければ日本が回っていかないくらい必要としているにもかかかわらず恩を仇で返す状態)、日本人の「自分達さえ良ければあとはどうなろうと無関心」な気持ちがあらゆるところで表に出てきている気がする。逆に日本人が難民になるような事態になったら、優しく手を差し伸べてくれる国などあるのだろうか…。

どんな事情があれ、子供達が明るい未来を夢見て生きるのを応援する社会にしたいし、家族を意味なく引き離さない政治をする人を選択したいと強く思った。自分にだって出来ることがすぐそばにある。
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