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マイスモールランドのtjrのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
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フランスや韓国で映画制作を行うなど、名実共に国際的映画監督の是枝裕和が率いる分福が制作に関わる。

洗っても取れない掌の朱、父が家を出た後にするヘアアイロン、なりゆきに任せて自らのルーツをドイツ人とするなど、胸を張ってクルド人だと言えない鬱屈した感情に囚われた主人公サーリャ。
その理由が徐々に明かされることで、彼女がこれまで感じてきた複雑な感情を観客も徐々に理解する。それを言葉でなく、僅かな表情の変化で伝える嵐莉奈は素晴らしい演技だった。

そんな彼女に希望と写る青年を奥平大兼が好演。
“俺は青とオレンジ見るとおじさんを思い出す”“もう先生じゃん”など気の利いた優しい返しができる人物。
しかし、よくある“被差別者を救うヒーロー”として完全無欠に描くのではないところが、観客の視点として絶妙に機能していた。ワールドカップの無知を晒す件や、拒絶されると分かっていながら自らのバイト代を手渡すことしかできない姿など、等身大の演技が光る。

“しょうがないよ→しょうがなくないよ”と声を大にして即答していた聡太が、終盤では“しょうがないよ”に返す言葉が無くなってしまうところに実際のやるせなさと無力さを痛感した。
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