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ムリナのarchのレビュー・感想・評価

ムリナ(2021年製作の映画)
4.4
「窒息しそうなまでの"青"」
クロアチアの美しい島で高圧的な父のせいで窒息しそうな毎日を送るユリア。
思春期の彼女は友達もいなければ、恋もしたことが無い。どこまで海と空は続いているのに、そこに壁はないのに彼女は抜け出せずにいる。

この映画は父の友人ハビエルの来訪を期に、窒息しかけていた彼女が"外"を意識し、そして同時に己の未熟な"青さ"を知るまでの物語になっている。海の持つ美しさと怖さがメタファーとして張り巡らされ、彼女のいるモラトリアム的であるが、窒息しそうな環境(人間関係)を美しい映像が時折、恐ろしさを帯びて捉えており、見事だった。
この映画で好きなのは、彼女の置かれている環境の理不尽さを描くだけでなく、そんな環境で生きてきたからこその生まれただろう彼女の考えの甘さ、若気の至りのようなものも描かれているところにリアルさを感じた。
特にハビエルとの関係に関して若さゆえの痛々しさみたいのは強く感じた。

彼女の意思と行動がシンクロした見事なシーンとして洞窟に閉じ込められたシーンがある。あの窮屈さと叫んでも誰も助けてはくれない状況は彼女の現在であり、そこから自らの力だけで窮地を脱した姿に、ハビエルに頼るのではなく、彼女が未来を自ら切り開けるのだという予感をもたらす最もエモーショナルなシーンだといえる。

現状から抜け出そうと藻掻く青春、その瑞々しさと痛々しさを描き、結局は何も変わらないかもしれないという現実の厳しさと"彼女の行動"が予感させた僅かな希望を共存させた見事な最後。
掘り出しものの大傑作でした。
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