Ricola

ムリナのRicolaのレビュー・感想・評価

ムリナ(2021年製作の映画)
3.5
美しい海に囲まれた島に住む少女ユリア。
ユリアは抑圧的で保守的な考えの父親から逃げ出し、新しい世界へ踏み出すことを望んでいる。
父親の古い友人ハビエルとの出会いが、彼女を動かすことになる…。


タイトルの「ムリナ」とはウツボを意味するそうで、ユリアが父親と潜り漁に行くと海の中で遭遇するのがそのムリナなのだ。
海底の穴にいるムリナのように、ユリアも島と父親から縛られている。

ユリアによるこの狭い世界への抵抗は、単なるアンチ父権制というだけでない。彼女が闘う対象は他にもたくさんある。
その彼女の孤独な闘いは現実的な側面が強調されるため、見ていて少し辛くもなる。

海の美しさは言うまでもない。
冒頭の長回しの、海の奥から見上げるようなシーンから圧倒される。
水の中ならではの、ゴーという音がこもったように響き渡る。
また深くまで潜るシーンでは、水中で吐いた息がブクブクと泡となって上へと昇っていき、だんだんと小さくなり消えていく。
このシーンをゆっくりと映し出すことで、深海だからこその緊張感と泡と海の深い色の美しさを十分堪能することができるのだ。

さらに海というのはユリアにとっての逃げ場であり、唯一彼女らしくいられる場所である。
それは父が側にいる場合であっても、一人でいるかのような感覚を覚えるほどのように思える。
ユリアを包み込み見守るけれど、彼女を助けるわけでもなく突き放すわけでもない。海はありのままの彼女を受け入れてくれるのだ。
またどこまでも広がっていく海は、彼女の将来の可能性をも表しているかのように感じられる。

ただ、しつこいと感じるほどの水着のクロースショットには、少し違和感を覚えた。
ユリアは実際に作中ほとんど水着でいるのだが、カメラが彼女の身体を切り取るように近寄る。
父親などのだらしない体との対比によって、ユリアの若さを強調する狙いなのかもしれないが、そういった意図であったとしても、やらしさを感じるほどのカメラの距離の必要性を感じられなかった。

寓話的なようでとても現実的であり、単なる二項対立ではないけれど、最近よく議論としてあがってくるような若者特に女性の現実への向き合い方を提案してくれる作品である。
日常と化している悪習から逃れることはかなり難しいけれど、一歩を踏み出さなければ何も始まらないのだ。
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