観々杉

オッペンハイマーの観々杉のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.7
娯楽系作品の名監督と見做されるノーラン監督を巨匠へと格上げした作品。原語版で鑑賞したが、専門的な用語が多く、必要以上に難解に感じた。著名な物理学者たちが言及されるなど、鑑賞前に物理学を見直すとより楽しめるだろう。バイオリンが印象的な劇中音楽は、もはやクラシックな時代である第二次大戦期に調和している。映像表現は本作の最も注目すべき点であり、インセプション等の浮遊感や大雑把なアクションから、風景の繊細さや空間の穏やかさを中心に捉えた詩的な作風に変わっている。監督はテレンス・マリックのシンレッドラインを好きな作品に挙げているが、彼もまた、その領域に達したといえる。
原爆に対し神秘性すら見せるような映し方があり、その後葛藤は描くもののシーンは少なく、本作は反核のメッセージを持っているとは言い難い。しかし忘れてはならないのは、監督の発言通り主題はオッペンハイマーの生涯という事である。原爆が最も重要なテーマである事は確かなものの、ドイツ系としての彼の扱いや大戦後のとある名誉の危機など人間関係のイベントが重厚であり、アメリカ人と同じ視点から鑑賞する事も充分可能だと感じた。山崎監督がオッペンハイマーに対する回答を描いた映画を検討しており、そちらにも期待したい。
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