後入れかやく

オッペンハイマーの後入れかやくのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

 傑作だと思う。科学者としてのオッペンハイマーの姿が、彼の一つ一つの言葉や態度、彼を取り巻く仲間や(恋愛関係を持つという意味での)女性との関わりから肉付けされて見えてくる。
 ただ、アインシュタインとの会話にも出てくる「世界を破壊した」という言葉が、頭の中をいつまでもぐるぐると回っている。
 広島に原爆を落としたその時オッペンハイマーに見えたものは、抽象的でありながらもおぞましく、原爆のおそろしさを伝えるには(実際に何が起こったかを知っている私たちにとっては)十分であったかのように思える。しかし、やはりこの作品で強調されているのは(というか、読み取られているものは)、傷ついた者に感じる痛み、「過去」に対する道徳的な呵責というよりも、原爆というおそろしいものを作ってしまったという「未来」への後悔なのである。
 「世界を破壊した」という言葉から、私(たち)は、核の脅威を感じるとともに、広島や長崎で起こったことを想像し、深く胸を痛める。一方で、ガザの状況への無関心やアカデミー賞授賞式でも浮き彫りになった人種差別の根深さなんかを考えていると、「あなた(たち)」も私(たち)が抱えている痛みと同じものを感じていてくれていますか?と、不安になってしまう。そして、自分自身を振り返り、自らの欠如と向き合うきっかけをくれる。この作品が日本で公開されてよかったと、心からそう思う。