紫微中台就職希望

オッペンハイマーの紫微中台就職希望のネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

モヤるところも少なからずあったがそれなりに面白かった。
全体としてハリウッドの史劇という感じで、個人的に歴史物、伝記物はとことんドライなタッチが好きなのでとりわけ好みのテイストではなかったが、マーフィーやRDJらの演技は良く、オッペンハイマーの飄々とした感じがよく出ていたし、セットも良かった。
(日本ではなかなか知ることのない)原爆に対するさまざまな視点、ロジックや、少し狂気を感じさせつつも冷静な科学者たちと熱狂する彼ら以外という対比、そして気味の悪さも面白かった。また、他のノーラン作品と同じく、科学的な面白さも感じられたが、科学的な関心が歴史的関心に先立っているようにも感じられた。
カラーで示される一人称の視点を多く用いながらもモノクロームで示される三人称の視点を含め、また繰り返し挿入された"殉教者"になれないといった台詞からは監督が主人公を過度に美化したという批判を回避したいのだと感じた。
しばしば広島や長崎の惨状を直接描かなかったことに関して批判がされるが、中途半端にそれらを描かなかったこと(それによって非当事者の側から矮小化しなかったこと)は評価できると思う。東京大空襲では市民が10万人亡くなったこと、また原爆では事前の予測を大きく上回り、22万人が亡くなったことが示されていたし(その数字は概ね正確)、犠牲が大きく、道徳的責任を問われうることも示されていた。オッペンハイマーという題材を選択したことの是非を別にすれば、被爆当事者にコミットしないアメリカ人の側としては適当な選択だったと思う(とはいえそれがアメリカでどう受け止められうるかと考えると…)。京都が"文化的価値があるから"候補地としなかったという俗説の側に立っていたことはフィクションとはいえモヤった。
また、核実験等のシーンを見せ場にしている感じもあったし、伝記映画としては抜群に完成度が高く面白いとはいえ、もう少し科学者や政治家の"罪"、広島、長崎にとどまらず、冷戦にまで至る核の脅威、さまざまな被爆事件などをあまり描かずにオッペンハイマーを描きうるかは検討する必要があると思う。

作品の評価からはズレるが……
やはり、この作品の公開がここまで遅れることで、唯一の被爆国が作品の評価に加わることが遅れたことに関しては日本の配給を批判したい。日本公開前にオスカーはじめ、作品の評価が概ね定まってしまったことは残念である。また、このような作品を世に放ったオッペンハイマーの製作陣、俳優陣がイスラエルはじめとする今日の惨状に対しメッセージを発さなかったことも極めて残念であった