こくい

オッペンハイマーのこくいのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0

さて、これを見てあなた達はどう思いますか?

これだけが、この映画が観客に問いかけてくる唯一の言葉である。

映画のすべては、オッペンハイマーが見たものと、オッペンハイマーを見ていた者が見たもので構成されていた。
これだけ主観的で客観的な映画でありながら、分かりやすい感情演出を一切用いず、3時間という長尺を1秒も漏らさず没入させてくれるクリストファー・ノーランの力量には、もはや溜息しか出てこない。

1カットとして無駄なものはなく、映画の外へ意識を逃さない。
まさしくそれは人の人生だ。

一人の半生を描く伝記エンターテイメント映画として、これほどのクオリティを生み出せる映画監督は、ノーランをおいて他にはいない。


いやぁ…マジで、クリストファー・ノーランは裏切らないなぁ…。

脚本から編集、キャスティングに至るまで、全てが大好きだ…。


キリアン・マーフィの演技は、もう本当に最高でした。

IMAXで見たのは大正解だった。そう確信したのは、オッペンハイマーの脳内で炸裂するイメージ映像や、トリニティ実験の映像を見た時ではなく、ラストのキリアン・マーフィのクローズアップを見た時だった。


傲慢さの中に愛嬌と親密さを加えられるマット・デイモン、凝り固まった思想に奥深い情熱を生み出せるロバート・ダウニー・Jr、脇を固めるキャスティングはすべて完璧だった。

キリアン・マーフィを主役に据える、ノーランのキャスティングの好みが、もうほんとドンピシャなんですよ…。
クリスチャン・ベールで、マシュー・マコノヒーで、ジョン・デヴィット・ワシントンなんですよ…!!!!!


日本人として、確かに辛いシーンはあった。

でも、この映画には微塵も説教臭さがなく、作り手からの無用な問いかけもなく、無用な配慮もない。

ただそこにあったのは、この世界を生み出した、オッペンハイマーの表情だけだった。

日本人が見るべき映画なのではなく、今を生きるすべての人が見るべき映画だと、私は思った。
こくい

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