真昼の幽霊

オッペンハイマーの真昼の幽霊のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
原案になった本の上巻途中まで読んだ段階で鑑賞。ノーランは好きな作品もあるけど正直過大評価では?と思ってたし、この『オッペンハイマー』もまあまあの出来かと思ってたけど、いやナメてました。こんなにすごいとは思わなかった。

原案本の読書が追いつかなかったのでルイス・ストローズ周りの細かい事情は正直混乱したけど、まあ何が起きてるかはざっくりとわかる。

もっとすさまじい映像で見せてくるのかと思ったけど(というか実験シーンはすごいけど実際にはあんなもんではないのではないだろうか)、案外演技や細かな演出のほうが印象に残った。すでにどういう場面か知っていた原爆投下後のスピーチシーンはほとんどホラー映画で、心底怖かった。ノーランってこんな演出もできるんじゃん!と上から目線で驚いてしまった。

原爆投下後の日本の描写は結果的になくてよかったと思う。描写すれば、かえって起きたことの矮小化につながってしまったのではないだろうか。被害者のことを考える必要はあるけど簡単に被害者サイドの心情を描けるわけでもないと思う。

もちろん日本人としては複雑な気持ちになる部分はあるけど、ある意味では日本人が一番この映画を観るべきだし、観てどう思ったかを考えるべきだと思う。まあ『変な家』が一位になる国だから無理か。

キリアン・マーフィー、好感は持っていた俳優だけど、オスカー獲得もうなずける名演。瞳孔ずっと開いてる感というか、変人なんだけど悪い人ではない感を見事に体現していて、ますます好きになった。エミリー・ブラントも「俺が知ってるエミリー・ブラント」じゃなくて、オスカーは逃したけどよかった。

何人かの俳優の出演は知っていたけど、地味にすごい大物が出てくる。アインシュタイン役のトム・コンティは『戦場のメリークリスマス』のローレンスです。ケイシー・アフレックが地味に怖かったし、トルーマン役の俳優、どっかで見たことあるなと思ってたんだけどクレジット見て声出そうになったわ。彼はあの政治家も演じてたし。

音楽がずーっと流れてるのは賛否ありそうだけど、個人的にはルドウィグ・ゴランソンのスコアが好きなのでまったく退屈しなかった。

ホイテ・ヴァン・ホイテマの撮影も当然のごとく最高で、自分としては特撮よりも、IMAXの画角と解像を強烈に駆使したオッペンハイマーのクローズショットが印象に残った。もちろんそれはキリアンの表情の演技もあってのものだけど、主人公のアップが一番のスペクタクルだよ!
真昼の幽霊

真昼の幽霊