ぶみ

オッペンハイマーのぶみのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
THE WORLD FOREVER CHANGES

カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンが共著により上梓したノンフィクション『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作とし、クリストファー・ノーラン監督、脚本、キリアン・マーフィー主演により映像化した伝記映画。
第二次世界大戦下で、世界初の原子爆弾を開発し、「原爆の父」として呼ばれるようになった理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの姿を描く。
原作は未読。
主人公となるオッペンハイマーをマーフィー、妻キャサリンをエミリー・ブラント、アメリカ陸軍の将校レズリー・グローヴスをマット・デイモン、アメリカ原子力委員会委員長ルイス・ストローズをロバート・ダウニー・Jr.が演じているほか、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ラミ・マレック、ケネス・ブラナー、デヴィッド・クラムホルツ、マシュー・モディーン、デヴィッド・ダストマルチャン、トム・コンティ、ジェイソン・クラークといった豪華メンバーが集結。
物語は、ノンフィクションをベースとした伝記作品であるため、オッペンハイマーの半生が描かれるのだが、時間を操る作風を得意とするノーラン監督であるが故に、冒頭から、オッペンハイマーの青春時代から原爆開発に携わるようになる様に加え、戦後、スパイ疑惑を受けたことによる聴聞会と、モノクロ映像によるストローズの公聴会という三つの時間軸が頻繁に入れ替わる形で展開していくため、まずこの点を踏まえた上で、しっかり観ていないと混乱すること必至。
また、会話劇を中心として、それなりの情報量があるのに対して、各登場人物の説明があまりなされないままテンポ良く進んでしまうため、話に遅れまいと終始脳がフル回転してしまう状況に陥ることとなり、観終わった後の疲労感は半端ないもの。
特筆すべきは、やはり音であり、無音や爆発音の使い分けが素晴らしく、以前『デューン 砂の惑星PART2』でも書いたように私はIMAX難民であるため、通常のスクリーンで観たものの、シートがビビるような重低音は迫力十分で、特にそれが最高に活かされるトリニティ実験のシーンでは、実際に実験の立会者を追体験できるような仕上がりとなっている。
加えて、声高にアナウンスはされていないものの、原爆承認の鍵を握る某大統領役をゲイリー・オールドマンが演じていたのも見逃せないポイント。
あくまでも、オッペンハイマーという一人の天才学者が見ていた世界の物語として、巨大な時代のうねりに翻弄され、苦悩する様を具に描き出すと同時に、巨大プロジェクトにかけるお仕事ムービーとしても、はたまた政治群像劇としても一級品の出来栄えであるとともに、そんなオッペンハイマーも、ただの人間でしかないことを示すために躊躇ない演技を見せたピューを何気に優勝としたい秀作。

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