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オッペンハイマーのbennoのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2
ノーラン監督作品…8作品目


プロメテウスは火を盗んで人類に与えた為に山に鎖で繋がれ永遠の拷問を受けることとなる
       《ギリシャ神話》
                 


まさに現代のプロメテウス…《原爆の父》と呼ばれたオッペンハイマー(キリアン・マーフィ)

原爆実験に成功するものの、それが国家の大義の為に利用され母国では国を救った英雄…しかし我が国日本では恐ろしい惨劇が…倫理的なジレンマの苦悩に満ちた彼の生涯を描いたヒューマンドラマ…。



トルーマン大統領に吐露した言葉が印象的…

“I feel that I have blood on my hands.”

  私の手は血塗られたように感じる…
     


やはり一筋縄では行かないノーラン作品…彼のお家芸でもある時系列の操作に惑わされます。

まず、大きく2つの時間軸…
FISSION 原爆(核分裂)のカラーパート
FUSION 水爆(核融合)のモノクロパート

オッペンハイマー視点のカラーパートの中でも2つの時間軸が交錯…その中にストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)視点のモノクロパートが挿入…つまり3つの時間軸…


ケンブリッジの学生時代は実験が苦手な理論派…教授の林檎にある細工をする程精神を病んでしまいます…おまけに人の心がわからなかったり、女性関係は奔放で欲に流されやすい弱い人間らしさも…

一人称でありながら感情移入をさせない、英雄視を避け、カタルシスを生まない…とても客観的にオッペンハイマーという人物を丁寧に描き、且つ突き放した映像…センシティブな内容への上手いアプローチだと思いました…そこから監督の反戦、反核の思いも感じます。

天才の頭の中が宇宙や量子のイメージで体験出来る映像は面白い…

そして世界初の原爆実験《トリニティ実験》…胸を抉られるような映像で準備段階から込み上げるものが…知らず知らず涙が頬を伝わります…


ピカーーン!!

まるで太陽が地面に叩きつけられたよう…

無音の静寂に包まれます…これが原爆…

とてもとても長く感じました…

油断していたその瞬間…ドーーン!!

光と音のタイムラグ…

身も心も打ち震え…

映像体験の意味を確かに感じました…。

満面の笑みで喜ぶ科学者たちの中には呆然とする科学者たちの姿も…成功の喜びと共にやってしまった感が感じ取れるキリアンの演技が絶妙です。



  〜〜〜⚠︎以下ネタバレ含みます⚠︎〜〜〜














元共産党員の親族や愛人、政府の赤狩りによりオッペンハイマーにかけられたスパイ嫌疑の聴聞会…実はある人物の過去の恨みによる仕組まれたもの…その人物の嫌らしい演技が憎らしいほど上手い!!

今作は時系列も然る事ながら…ノーベル賞クラスの科学者がたっくさん…名前と顔が…ს

後の《水爆の父》と呼ばれる狡猾なテラーの動向にも注目…そう言えば、彼をモデルにしたのがキューブリック監督作品《博士の〰︎》のDr. ストレンジラブ…頭の中にピーター・セラーズが顔を覗かせますっს

ストローズの公聴会では、ある人物の天晴れな証言!! 思わずスタンディングオベーションしたくなりました…よくやった〰︎!! ラ…… Oooops ს

おまけにストローズの商務長官任命に反対票を投じた人物の中には胸アツな名前も…そして肝の据わった妻役のエミリー・ブラントの演技も素晴らしい。


アインシュタインとの映像の編集は実にノーランらしく…この時間トリックには惑わされましたს



ノーベル然り、科学者の業として抑止の為に創り出したものが負の遺産となってしまう事実…原爆そのものよりも愚かな人間の倫理観が問われているように感じます。

戦争の世界へと再び突入し始めた今…とても意義深い作品で考えるキッカケを与えてくれる作品です。
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