不健康運動

オッペンハイマーの不健康運動のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
毎日だだっ広い公園を横断して通勤している。
公園内には慰霊碑がたくさんあり、私の通勤経路の右手には原爆ドームが見える。

個人的に、原爆の投下地について話し合うシーンが一番苦しかった。
「京都は新婚旅行で行って、すごくいい場所だったし、候補地から外そう」という軽々しい発言を聴き、いつも歩いている公園が脳裏に浮かんできて、涙が止まらなくなってしまった。
あーあ、あんたらのせいで、広島市の中心部はでっかい公園になっちまったよ。
1945年の8月6日より前は、たくさんのお家があったはずなのになあ。

場所柄、そして職業柄、作中に広島・長崎の惨状が直接的に描かれていないことを批判する被爆者の声を耳にする。
トリニティ実験で被曝した影響により、がんで家族を失ったニューメキシコ州の住人が、「オッペンハイマーという作品ですらも、自分たちの存在が透明化されている」と憤ったという報道も目にした。

あくまで本映画の視点はオッペンハイマーとストローズなので、原爆被害者側の視点を入れるのは、軸がブレるのではないかと思った。
ただ、私は現在被爆地に住んでいるだけで、被爆の当事者ではないからこう思えるのだろうし、被害を受けた当事者が上記のような声を上げるのは理解できる。

映像的な面では、トリニティ実験の不穏な劇伴→一気に無音に→強烈な光→燃え上がる炎→爆音という描写がすさまじかった。
特にこのシーンは、劇場の大スクリーンと音響で見なければならないシーンだったと思う。

裁判(正式では裁判ではないが)で、オッペンとストローズが陥れ、陥れられ……合戦をするくだりは正直さして興味を抱くことができず、個人的なクライマックスはオッペンがスピーチ中に原爆被害の幻覚が見えるシーンだった。
正直以降は、「あーなんか二人でやり合っとりますわ」としか感じられなかった。
ただ、冒頭とラストをオッペンとアインシュタインの会話ではさむ構成は、本当にお見事だなと思う。

コロナ禍も収束し、また広島でもたくさんのインバウンド観光客を目にするようになった。
どうか宮島だけでなく、原爆資料館にも足を伸ばしてほしいと切に願う。