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オッペンハイマーのmilouのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
映画のオープニングは、水たまりに落ちてくる雨、それがつくる無数の波紋。そして水たまりのそばに立つオッペンハイマーが、それをぼんやり眺めている。この水の波紋のショットが、つぎつぎに新しいショットを呼び込み、核物理学者のその後の人生と世界へと物語が広がっていきます。つまり「水の波紋」が、核分裂で激しく飛び回り始めた粒子、それがもたらす世界の破滅、その中で大きく変転するオッペンハイマーの人生…を象徴しているんですね。すばらしい編集技術、すばらしいオープニングです。

映画はこの種のきわめて精密なクロスカッティングが繰り返し反復されて、極小の粒子の世界と、核兵器の開発がもたらす歴史の大転換の間を激しく行き来します。その粒子の世界の表現、歴史の転換を表現する緩急の感覚、どれも今の映画の世界の最高峰をゆく技術であることは間違いありません。日本で映画・映像の製作にかかわるすべての人に見てほしい作品です。

ただ、そうした息を呑むような撮影技術が「オッペンハイマー」という人の複雑怪奇な人生を描き切ったかというと、意外にそうでもないんですよね。とりわけ原爆投下をめぐる葛藤の描き方はありきたりです。日本の観客を怒らせるほど冒瀆的な表現があるわけでもない。(つまり日本上映を先延ばしするほどのことはなく、日本の映画会社の腰の引けかたは、情けないかぎり)

なので米国では「退屈だった」という感想が、結構ありました。3時間の映画の中盤で寝てしまった・帰ろうかと思ったと。映画は鮮烈な映像技術だけで見るものではないから、これは当然。

とはいえ脚本は周到につくられているし、手堅くそろえた俳優陣も見事。撮影技術以外にも見所は多いのではないかと思います。
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