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オッペンハイマーののわのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9
アカデミー賞まで取ってしまったクリストファー・ノーラン監督の新作が、あのアクション系ばかり撮ってきた監督の人間劇が、果たしていかほどのものなのか、とかなり疑心暗鬼に観に行ったが、納得の出来だった。

全くもってメロドラマにしない淡々と事象を描きながらもその表現によりオッペンハイマーという人物を掘り下げるその演出が本当に素晴らしかった。
その点においては「インターステラー」以上にノーランはキューブリックを敬愛してるだけあるなと納得がいく出来だった。

時系列や人間関係の複雑さによる理解の困難さはあるがこの構成で物語を組み上げているからこそただ一本線に描いては表現できない作品としての揺らぎが生まれている。
我々は原爆が完成するという“成功”が同時に大いなる“大罪”と背中合わせであることを知っている。その大前提に基づき、罪人とされる彼と成功へと向かう彼が同時に進行していく構成はその先にそこが重なり合ってこそひとつの彼という人格が描き切れるという意図と極めて巧妙に合致していた。

意外だったのはオッペンハイマーにひたすらにスポットを当てるのではなくロバート・ダウニー・Jr演じるストローズが思いの外、裏主人公とでも言うべきほどに主体として描かれていたこと。
だがそれがまるで「アマデウス」のサリエリかの如く“我々”の側として描かれることによってオッペンハイマーという人物の孤高さが際立つという機能として上手く存在していた。(ストローズの思惑が露わになったあたりで、え?これで結末向かえちゃう?したらまるで「ユージュアル・サスペクツ」じゃん!って思ったけど、それは全然杞憂だったw)

ちなみに役者に関してはロバート・ダウニー・Jrがアカデミー賞とったな、ぐらいの知識しか持たずに観てたので「なんかケネス・ブラナーに似たオッサン出てきたなぁ」「今度はマット・デイモンに似たオッサン出てきたなぁ」って思ってたらどっちも本人だった、っていうw

あと本作に関して絶妙な点は、音。
メロドラマ的な余計な音楽による感情への促しなどは一切ない心地良さ。そしてオッペンハイマーの心象を彼につきまとう不穏さを絶妙な音響効果で表現している。
映像も含めてだが、彼の感情が生みうる景色の挟み込まれ方が作品としても絶妙な起伏を作り、それがスリリングでもあるが故にその辺の伝記映画とは一線を画したノーランの他のアクション系映画に負けない抑揚が生まれていたのは非常に興味深かった。



オッペンハイマーという天才と呼ばれた人間の、高みに立つことによる孤高の眺め、そしてその才能だけが摘み取られ個の感情を無視され(させられ)搾取されていく様、その中で彼自身は己を「我は死(神)なり、世界の破壊者なり」と吐露している、そうした景色は個人的に極めて大切な愛してやまないアーティストの姿と大きく重なり、そんな人の共感を描いてくれたノーランに心からありがとうと言いたくなってしまった。これは本当に極めて個人的な感傷に近い感想でしかないが。
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