ヒデ

オッペンハイマーのヒデのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
「物理学300年の集大成が大量破壊兵器だと…?」

原爆を作った天才科学者・オッペンハイマーの波瀾万丈の人生を描いた作品。

前半は「プロジェクトX〜原爆を作った男たち〜」で、後半はスパイ容疑をかけられた有名人の悲劇が描かれる。

冒頭でオッペンハイマーが弾劾されている様子が流れ、「え、どゆこと?」となっていたら、そこから原爆を開発するまでの過程が始まる。体力殺戮兵器を作ることを命じられてから、彼らなりの正義が発芽する瞬間も。過去と現在が入り混じる構成なので結構見づらいが、前述の前後編の流れだけ掴んでおくと理解しやすい。

原爆を作ることへの罪悪感、過去の共産党との関わりによるスパイ疑惑、家庭の不和、元恋人の自殺など、天才科学者にまとわりつく葛藤は絶えない。

ところどころ画面がぐらついたり、喜ぶ観衆の声が消えたり、講堂で観客が足を踏み鳴らす「ドン!ドン!ドン!」という足音だけ頭に鳴り響く演出が入ったりして、オッペンハイマーの不安定な心境が伝わってきた。大量殺戮兵器と関わってしまったことによる良心の呵責で、彼の脳は常に爆発寸前。世界を滅ぼす力を生み出してしまった男の、一時の栄光と深い絶望。

第二次大戦下のアメリカから見た日本の印象も語られるので、日本人なら観る価値はある。ただ原爆実験成功時のお祭り騒ぎのようなワーワーシーンを見た時はやはりちょっと複雑だった。


以下、セリフメモ。


「(核分裂の実験結果を見て)世界中の物理学者はみな同じことを思ったはずだ。"爆弾"と」

「そのクソみたいな軍服を脱げ。我々は科学者だぞ」

「君が生み出した強大な力はナチスを駆逐するだろう。だが世界には早すぎる」

「我々科学者は数字で未来を見ている。しかし一般人はそうではない。原爆を落とすのは未来を見せるためだ」

「君は人類のプロメテウスだ。人類に滅びる力をもたらした」

「成功したら"シーツを入れてくれ"」

「原爆が世界を壊す可能性はほぼゼロだ」
「ほぼ?"ゼロ"が望ましいね」

「私の手は血塗られたように感じます」
(ハンカチを渡して)「…博士、広島や長崎の人が、原爆を作った人を恨むと思うか?違うね、"落とした人“だ。つまり私さ。君なんぞじゃない」

「罪悪感を持つことは無益だ」

「あなたは共産党員だったそうですね?スペイン内戦の時も、当時の夫にお金を送っていたと。ずっと共産党との関係は続いていたんじゃないんですか?」
「その言い方は不適切よ。私は難民を支援して、共産主義思想に知的関心を持っただけ。党との関係は始まってもいないわ」

「こんなものは結論ありきのヤラセだ。なぜやめない?」
「僕には理由がある」

「祖国を出るのも手だぞ」
「僕は祖国を愛している」

「世界を壊した」
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