ヒデ

横道世之介のヒデのネタバレレビュー・内容・結末

横道世之介(2013年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

「おいが死んでもさぁ、みんなああやって泣くとやろか?」

1980年代の東京を舞台に、長崎から上京した大学生・横道世之介とその周りの人々の暮らしを描く。

これは傑作では…。なんだろうこの感情は。ヘンテコ大学生の温かい人情譚かと思って見たら、そこに「世之介は16年後の世界では死んでいる」という死の匂いがブレンドされたことによって急にセンチメンタルな空気になった。

16年後の世界で普通に生活を送る人々の心に微かに残る、亡き世之介の影。法政大のサンバサークルで世之介をきっかけに出会った夫婦、ゲイであることをカミングアウトするも世之介が全く動じないことに驚いた友人、そして元カノのお嬢様・吉高由里子。

みんなにとって生涯ナンバーワンの人物ではないけれど、なんとなくその笑顔が忘れられない朴訥で屈託のない人柄の青年。これでもかというほど人を疑わず、初対面の隣人女性のシチューの誘いに乗ったり、金を貸してくれと言った友人に即答で貸すと返事したり。悪意がなさすぎて心配になる程いい奴。距離の詰め方が下手クソなのも愛せる。

作中で大きな事件があるわけではないので、シンプルに演技力が求められる難しい役だったと思うけど、高良健吾の演技は完璧だった。その周りを固める役者陣も素晴らしく、池松壮亮のサンバ合宿での恋バナの話し方とか異常なほどリアル。

あと全編通して吉高由里子の可愛さはエグくて、こんなハマり役があるのかと驚いた。カーテンに隠れて告白に照れるシーンと、アパート前の雪上でキスを求めるシーンは可愛すぎる。クリスマス会でベルばらの絵を描いてる無邪気なところとかも。16年後、病院を出た後に二人で歩いた横断歩道を思い出して、タクシーの中で目を潤ませるシーンもとても良い。

ただただ素晴らしい映画を観た。観て良かった。

この作品の登場人物たちのように、いつか自分も横道世之介という名前を思い出して「ああ、あいつ面白い奴だったよね」と思うのだろう。
 

以下、セリフメモ。


「俺さ、男の方がいいんだよ。わかるか?」
「それって…俺に告白してるってこと?」

「今思うと…アイツ(世之介)に会ったってだけで、お前よりだいぶ得してる気がするよ」

「わたくしだって、女ですから。世之介さん、ちっとも女心がわかってないんですね。わたくしだって、世之介さんが昔の恋人のことばかり気に掛けてたら、悲しくなります」

「あのぉ…祥子ちゃん、これは口に出すべきことかわからないんだけど…キスしていい?」

「難民だ!街の人に知らせなきゃ!」

「ええ?どがんやろ?世之介のこと思い出したら、きっとみんな笑うとじゃなかと?なんとなく、そがん気がすっと」

「あのさぁ、俺妊娠した…。あっ"させた"?」

「お前は見込みがない奴と付き合ってるのか?」
「あるに決まってるじゃないですか!世之介さんは私が今まで会った中で一番見込みがあるんです!」

「本当はね?ちゃんと二人きりのところで言おうと思ってたんだけど…。俺たちってその…付き合ってるよね?」

(カーテンに隠れながら)「世之介さんは…わたくしのこと、どう思ってらっしゃるの?」

「あのさ、カーテンから出ておいでよ」
「…ってください」
「えっ?」
「どこかに行ってください…恥ずかしい…」

「わたくしこれから世之介さんのこと呼び捨てにします。いいですか?」
「うん、いいけど…」
「では…世之介!」
「しょ…祥子!」

「あのーお願いなんですけど、世之介さんの写した写真、最初に見せていただけません?もちろんちゃんと撮れてなくていいんです!わたくし、世之介さんの作品を見る、最初の女になりたいんです」
「そんな大それたもんじゃないけど…。帰国するまでに現像して、押入れの奥に隠しとくから!」

≪世之介が亡くなって、3ヶ月が過ぎようとしています。一人息子に逝かれたものだから、もちろん悲しいのは悲しいけれど、いつまでも泣いてばかりはいられないですもんね。泣いていると、世之介の顔が浮かぶんですよ。いつも暢気だった、あの顔が。最近おばさんね、世之介が自分の息子で本当に良かったって思うことがあるの。こんなふうに言うのはおかしいかもしれないけど、世之介に出会えたことが、自分にとって一番の幸せではなかったかって。お時間があったら、また遊びに来てくださいね。二人で世之介の思い出話でもできたらと思ってます。きっと、笑い話ばかりになりそうね。≫
ヒデ

ヒデ