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オッペンハイマーのMRのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
たとえ伝記でもやっぱり簡単には理解させてくれないクリストファー・ノーラン。
現代史と量子力学とノーランを知らないと、一度見ただけでは何も追いつかないはず。
アインシュタインめっちゃ似てた。笑

⚫︎構成
核分裂と核融合、聴分会と公聴会、終わりない核脅威を表すオープニングとエンディング。
時間軸は複雑に動しているが、構成はいたってシンプルに整理されていて、あらためて見事。

⚫︎映像と表現
キリアンマーフィーとエミリーブラントのキャスティング大正解。
核分裂や核融合の研究をCGで表現することによって、理系とは無縁な自分でもなんとなく理解できたのでありがたい。
この映画一の見せ場であるトリニティ実験のシーンは音こそないものの、原爆とは何かを学んでる日本人にとってはより息を呑むシーンとなっていると思う。
原爆投下後のヒーロー演説で鳴り響く爆音と、喝采のなか被爆者を踏みつけながら歩くシーンは、歴史的成功(開発)と測り得ない対価をひとり背負ってしまった彼の葛藤と絶望を見事に表していたと思う。

⚫︎現代史と人
肯定する理由にはならないというのは大前提だがオッペンハイマーが原爆開発を推進したのも、国対国のシンプルな対立構造や国への忠誠心だけではなく、それぞれの主義主張や思想、赤狩りやホロコーストなど複合的な背景があり、いち科学者としての使命と、いち人間としての思いが大いにあったことがうかがえる。

小さな会議の場で、観光地を選ぶように実験地として広島長崎がサクサクと選別されていくシーンは、日本の権利も命も全く無視されていてゾッとする。
日本に対する侮蔑用語や無惨な表現はあまりないものの、いたってシンプルな言葉と表現が、戦争がいかに人を変えてしまい、他者の命を軽く捉えてしまうかを感じさせ、逆にショッキング。

いつまでも変わらずマッチョで暴力的な米政府と軍のシステムが恐ろしい。
それでもまだ日本がNPTに加盟してないのは皮肉すぎるよなと思う。
当時の原爆に対してというより、被爆国こそ米政府の本質を見てあらゆる戦争に声をあげるべきなんじゃないかと。
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