かさま

オッペンハイマーのかさまのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

前半の原子爆弾を作る過程ではオッペンハイマーが才覚で仲間を集め、科学者たちが理想の環境で成果を挙げていく様が描かれる。オッペンハイマーはエネルギッシュで、ロスアラモスの科学者たちが力を発揮していくさまは高揚感のあるものになっているが、何度か計画への疑問も提示され原爆が戦争を早く終わらせたというような原爆肯定論も作中で丁寧に否定されている。
前半はオッペンハイマー個人の物語として成り立っていると思う。よく知った土地で仲間たちと研鑽する楽しさの中で、結果が世に及ぼす影響は脇に追いやられ、政治的に利用されることについては対処できていない。
原子爆弾利用後の時系列としては1954年のオッペンハイマーへの聴聞会と1959年のストローズが商務長官になれるか否かの公聴会が主。後半はこの2つの時系列が同時進行で進むが、1954年の聴聞会にストローズの策謀があったことが1959年の時系列で語られる。
独立した2つの時系列を並べ要所で繋がりを示しているような部分もあるが、オッペンハイマーが自身のことや研究のことを語る聴聞会がストローズの語りの中に入っている。それによって、戦後の話はオッペンハイマーの戦後というよりはストローズの商務長官就任をめぐりアメリカが戦後どのように原子爆弾を扱ってきたかを語る話に見えた。
最終的にはストローズもアメリカ政治の駆け引きも超えて、オッペンハイマーと原爆の話に戻り終わる。
戦後を描く後半についてはアメリカ社会で原子力委員長というのがどれほどの地位なのかやストローズのアメリカ史上の知名度などの知識があれば違った印象になるかもしれない。
原爆研究のために土地を追い出された先住民がいることも作中で分かるが、日本の原爆被害に限らずこうした研究のために生じた被害全般は画で描かれてはないなと思う。研究成果の世の中への影響を直視しないまま研究を進めたオッペンハイマーの視点であるので、原爆被害が幻視のような表現にとどまるのは納得できる。だが原爆投下後の描写に限らず研究のために生じた被害を映画内ではっきり示す方法もあったのではないかという気はする。
核描写適当じゃない?と思うものがままある映画界で、科学者の責任やその後の社会への影響を描く作品であることは良いと思う。
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