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オッペンハイマーのぴーのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
生活がバタバタで書き出せず気付けば1ヶ月以上経ってた…。
DUNEに続いてIMAXレーザーGTで2回観た。池袋のフルサイズは2回目だけ。
某名探偵の公開前に予定ねじ込んだけど、今は再上映されてるようで何より。

「罪を犯しておいて、その結果に同情しろと?」
このラインが肝。起こること全てが核分裂あるいは核融合のように、爆縮によって引き起こされ連鎖していく。それは抑圧と解放であったり、結合と離散であったり、色々な形式を取る。
セリフもカットもとんでもない速さと量で雪崩のように押し寄せてくる、あっという間の3時間。
もっと余白をたっぷり持たせてじっくりと描くような作品だと思っていたので、想定と違うスピードでガンガン進んでいくから序盤は焦る焦る。

オッペンハイマーその人の追体験を主眼に置いているのは普通に映画を観ていればわかるので、被害の様子が写されない云々の話は全てが野暮。
カメラの置き方や動きだけじゃなくて、IMAXフルサイズに広がるタイミングも含めて徹底されてる。シークエンスの最初だけ、部屋のドアを開けるように広がるスクリーンは初めての感覚。
ホイテマ大先生の撮影が更にパワーアップしてて、コントラストの強い画が与える圧迫感はIMAXで最大化される。こんなに画の力が強いノーラン映画は初めてじゃないか?

ルドウィグゴランソンの劇伴は、個人的にはブラックパンサー以来のヒット。
鼓動のようにレートを速めながら揺らぐトレモロ音は、不規則に変化してポリリズムのようにすら聴こえる。高揚と不安定さと物悲しさを同時に感じさせる凄さ。

何かすごく目新しい演出や映像表現があるわけじゃないけど、ノーランもここらでいっちょ「名作」を作ったんだなとしみじみ。
インセプション公開当時は中学生で、なけなしの小遣い握りしめて近所のイオンシネマまで観に行った身としては、初めてリアルタイムで目撃した巨匠監督の誕生かもしれない。嬉しいね。

オッペンハイマーとノーランを重ねると、ノーランが発明したわけではないけど、彼が世界に存在を知らしめた技術と言えばIMAX。
世界中で大作だけが興行的成功を占める現実を前に「もう元に戻れない、映画の世界は破滅に向かう」なんていう自戒もあるのかないのか。
実際、日本では観客がIMAXに偏りすぎて通常設備のシアターでの興行は悲惨だそうで…。

史実に忠実とかそういう話とは別のベクトルで、「この時彼(彼女)はこう言ったと言われている」みたいな有名な台詞をそのまま劇中で臆面もなく言わせる(それも一つでなく幾つも)のがいかにもノーラン、そしてそこがノーランの愛せるところ。
気取らないのか、気取ってるつもりでも気取れてないのか。たぶん後者。

1回目観てから、まんまと原爆、どころか量子力学にまでついて調べてた。その状態で2回目観るとまた描かれていることがクリアに見えて面白い。
やはり徹底して男性的(ステレオタイプではなく、あくまで傾向として)な楽しみを提供、いやむしろ要請する作家だなあと。

そういやハイゼンベルグでハッとしたけど、ブレイキングバッドの世界観はこういうことなのかーと思ったり。

そしてまたもフローレンスピューが優勝。DUNEは史上最高に可愛かったけど、これは史上最高にエロかった。

最初の方に書いたように原爆投下の描写がないのは当然、ある方がおかしい、くらいに思うのは事実だけど、やっぱり一つどうしても気になったのは、今作の中では原爆はただの「めっちゃ強い爆弾」でしかなくなってしまっていること。
被曝するということのしっかりとした説明が、台詞でだけでもあればよかった。ちょっと吐いてる奴とかはおったけど…。
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