樺太柳葉魚

イニシェリン島の精霊の樺太柳葉魚のネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

怖い。美しい風景の中で展開される歪んだ人間関係。パードリックは確かに“いい人”なのだろうけど、想像力が欠如している。パードリックが親友だと思っていたコルムは音楽が好きで、内面が豊かな人物。部屋に日本の能面らしき物や、変わった仮面などが飾ってあったから、異国の文化にも興味があるのだろう。いい歳して本土の内戦がなぜ起きたのかも知らず、馬の糞の話を2時間も続けたパードリックに嫌気が差したのも無理はない。パードリックの妹のシボーンは読書家だけど、パードリックは妹の本を借りて読むような事もなかったのだろう。昨日までは普通だったとパードリックは言うが、コルム側から見ると、もう何年も前から始まっていたのかもしれない。パードリックが全く気付いていなかっただけで。小さい島で、島民みんなが顔見知りだから、パードリックと仲違いしたらすぐ噂になるだろうし、それが煩わしくて我慢していたのかも。コルムに指を切るとまで決意させたのは、鬱病などではなく、どうしようもないまでに膨らんだパードリックへの嫌悪感なんだろうか。パードリックもコルムが指1本切った時点で離れてしまえばいいのに、変に執着して怖い。指切ったんだよ?医者に麻酔かけて切ってもらったとかではなく、自力で切ったんだよ?それだけパードリックに対して怒りを抱いていたんだよ。そのコルムの心情が理解できず、強引にいけば仲直りできると考えるパードリックの愚かさが怖い。コルムとお喋りができないからパブに居てもつまらなくて、早く帰宅したら妹にめちゃくちゃ怒られて。シボーンも兄が鬱陶しいんだろう。パードリックは島一番のバカはドミニクだと言っていたけど、島民から見たらパードリックの方がバカなのかもしれない。音大生にしようもない嘘をついて、ドミニクにまでドン引きされたパードリック。いよいよ孤立していく。コルムも犬以外に家族がいない。独り暮らしだけど、豊かな内面生活があるから、充実した日々を送れているのだろう。一方のパードリックは退屈な日々。シボーンが本土へ行く決意をすると、「俺のメシは?」と言い出す始末。もっと他に気にする事があるだろうよ。パードリックって実は昔から島民に嫌われているのではないか。本人が気付いてないだけで。コルムの前にも“親友”に裏切られた事があるのではないか。でも理由が解らず、相手がおかしいと決めつけ、嫌がらせのような事を執拗に行い、精神的に追い詰めた過去があるのでは?考えれば考える程、ホラー色が強くなってくる。
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