脳内金魚

イニシェリン島の精霊の脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

『イニシェリン島の精霊』を見て、わたしはシャルリー・エブド事件を思い出したわ。


 多分開始10分くらいの空気感でこの映画が合うか合わないか決まりそうって思った。物語としては、主人公パードリックとコルムの間に何があったのか、コルムの一方的な言しか判断材料がないので没入はしにくいかも。

 後半になるにつれ思ったのが、コルムもパードリックの妹シボーンもどこか他人を見下すことで、あの閉鎖的な田舎での生活で自分を保っていたのだろうなと思った。要は自分はインテリジェンスだと思うことで。ただ、コルムとシボーンで決定的に違うのが、その鬱屈した感情をどこに向けるか。コルムが他者に向けたのに対し、シボーンは自分で活路を見出だし、あの島から抜け出した点。パードリックはあの田舎暮らししか知らないよく言えば朴訥、悪く言えば世間知らずなんだよね。世界は広いと知らない。上がる煙を見ても内戦なのにどこか他人事。でもそこしか知らないから比較対象がない。なので、イニシェリン島の生活に不満はないんだよね。

 他方、シボーンは本と言う外とのコネクションを持っていた。だからあの狭い世界から抜け出すことを渇望し、実際にそのチャンスをものにした。シボーンが兄に自分の下へ来いと呼び掛けるが、恐らくパードリックは些細な悪意に曝されてきたんだろうなって思った。それを白日のもとに曝したのがコルムだったんだ。

 コルムも作曲をしたりして、シボーンのようにインテリ層だけれど、どうすればあの退屈な島から抜け出せるのか(物理的にも精神的にも)が分からない。その鬱屈がパードリックに向かったんだろうなと。パードリックは友達と思っていたけれど、本当はそうではなかったのが真相かな。きっとどこかで見下していた。

 結局いじめみたいなの。明確な理由はないのかも。ただそこにいたから。自分をイラつかせるから。自分より下だから。そうしてエスカレートした行為は、どちらが相手の導火線に火を着けるかのチキンレースだった。コルムにとって予想外だったのが、パードリックの地雷は自分を害することではなく、自分の愛するものを傷つけることだった。シボーンがいなくなったことで、それは残った家畜たちだった。自分の矜持が大切なコルムにはそれが理解できなかった。そのため導火線に火を着けたのはコルムだったし、彼があんなにも怒りを露にしたのが意外だった。何が相手にとって大切か。それを理解しようとしないものは身を滅ぼす。シャルリー・エブド事件を思い出した所以だ。


 前にいたカップルは寝てしまったって言ってたけど、わたしは好きだな。うん。潜在的に人を見下す。そんな自分の醜悪さに気づかされる。そんな映画だった。
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