マインド亀

BLUE GIANTのマインド亀のレビュー・感想・評価

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
4.0
魂のプレイを全身で受け止めてほしい映画

●何でもいいのですが、ドラマティックな「プレイ」で心が震えて泣きじゃくったことはありますでしょうか。
ワールドカップでの劇的な逆転、WBCでの劇的なホームラン、死期の近いギタリストの最後の演奏、メンバーの死を乗り越えたトリオのコント、キー・ホイ・クァンのエブリシングエブリウェアオールアットワンスでのイキイキした演技……などなど(最後だけやたらと具体的…)、語るよりも雄弁な、魂を震わす「プレイ」というものがあります。

●映画で言えば、最近はザ・ファーストスラムダンクなどは、試合の「プレイ」そのものが登場人物のドラマと直結して、観る者のエモーションを高ぶらせました。
この作品ではまるで音楽版のザ・ファーストスラムダンク、というように、ジャズの「プレイ」をライブ体験のように魅せ、とてつもない感動を生み出しているように思いました。プレイそのものが物語性を帯びていく…漫画では想像するしかないJASSの面々の個性的な荒削りな音を再現しなくてはならず、参加ミュージシャンにとってもなかなか難しいハードルの高い演奏だったに違いありません。ですが、漫画原作のアート的とも言える演奏ビジュアルにガッチリとハマった力強い演奏が映画館に鳴り響き、体中の細胞が震えるように全身で受け止めることができました。特に宮本大のサックスの、力いっぱい叫ぶような音圧は、まるでフレディ・マーキュリーやホイットニー・ヒューストンのボーカルが映画にもたらすエモーションに匹敵するくらいの爆発力があります。ボーカルのないインストゥルメンタルでこれだけ感情に訴えられるのは、それだけ演奏と作画がガッチリとタッグを組んで、生のライブ以上の迫力を作り上げているからだと思いました。

●ただ演奏と作画が100%うまくいってるかというと正直残念な部分もあります。モーションキャプチャーの3DCGがうまくいってない部分が演奏中に多くあり、かなりノイズに感じました。二次元の絵と3DCGの動きが交互に繰り出されると絵柄が違いすぎて同じキャラクターに見えません。特にドラムの演奏では、動きがかっこよくないのです。まるでNetflixの「ULTRAMAN」をみてる感覚です。そういう意味で、同じモーションキャプチャを使ったアニメでも、一コマ一コマ井上雄彦が絵的な手を入れた「ザ・ファースト・スラムダンク」の凄さが反対に際立ちます。
また、ところどころ演奏中に入る静止画。これも全く上手く差し込まれてる気がしません。私には興ざめになるときが多々ありました。もう少し計算してここぞ!というときに「あしたのジョー2」ばりに入れてほしかったなあという気がします。

●私のような凡人にはドラマーの玉田の、ステージに立つにはあまりに素人過ぎて、自分が足引っ張っちゃってる辛さが身に沁みます。それでもこの短期間でブルー・ノートで歓声を浴びることのできる、尋常ならざる努力。やっぱり凡人ではありません。
雪折もまた、並の天才では世界に通用しないことが分かり壁にぶつかりますが、謙虚さを学ぶことを素直に受け入れ、チャンスを獲得します。この辺りも今の自分に、自分なりの学びになりました(もちろん天才ではございません。)。
一方で主人公の大は完全にドラゴンボールの悟空ですね。典型的な主人公。でも世界に羽ばたく天才というのはこういうものなんでしょうね。凡人には全く思い入れ出来ません。いやあ、辛い現実だなあ。3人のキャラクターのバランスがとても良くて、説得力があるのが本当に良いですね。

●しかし、これは私だけかもしれませんが、やっぱり一つの映画として見た場合、終盤の、あの衝撃的な展開は、いくらドラマティックな展開を迎えるためとはいえ、あまり好きではないです。やっぱり完全な状態でステージをこなした上で生まれるドラマ性を期待してしまいました。原作はさらに続いていますし、彼にも色々な役割がまだまだ出てくるのだと思うのですが、一本の映画としてみた場合はちょっとドラマ性を作り出すための安直な展開だなあと思いました。

●とはいえ、「ザ・ファースト・スラムダンク」と時を同じくしてまたもやエポックなアニメが登場し、映画館を賑わしているこの素晴らしさ。画面上に広がる「プレイ」とその音によって心震わせる体験を是非味わってみてください!
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