物語の主人公はごく平凡なふつうの人達である。ふつうではあったが、そこには多様な営みがあった。サラリーマン、主婦、学生、看護師、農民、公務員、エンジニア…年の頃は小学生から100歳を越えた高齢者まで。経歴も、国籍も、宗教も、生きてきた道筋も千差万別である。彼らは現実社会のリアリティに包まれながら山あり、谷あり…それぞれの人生を演じていた。ところが、そんな彼らが「とあるきっかけ」で「第九」と出会い、ルー トヴィヒ・ヴァン・ベートーベンから貰い受けた「音楽の種」を体に宿すこととなる。それは新しい人生の始まりであった。ある人は第二の人生を満たす為に、またある人は家族との絆をつむぐ為に、またある人は小さな日常からとび出す為に、ある人は愛する人を弔う為に、ある人は病と向き合う為に…それぞれの思いを胸に歩み出す。だが、彼らは、楽譜もドイツ語も読めないシロウトであった。歌を学び舞台に立つために地元のアマチュア合唱団に通いながら、それぞれが生活の中へ「第九」をとりこみ奮闘する。はたして彼らは…