不乱苦

デューン 砂の惑星PART2の不乱苦のレビュー・感想・評価

デューン 砂の惑星PART2(2024年製作の映画)
5.0
ドルビーシネマの先行上映で鑑賞。
原作は既読、リンチ版は未見。
前作の不満点と原作の不満点が、しっかり解消されている。それなりに期待はしていたが、完全に期待以上。これは今年ベストの予感。

前作は圧倒的な絵作りの素晴らしさ以外は残念なところも多い作品だった。原作に忠実故に盛り上がりに欠け、ストーリーにもなんの新味もなかった。
今作は、ビジュアルのクオリティを引き継ぎつつ、絶妙なアレンジで物語のフレッシュさを付加し、娯楽大作として遜色のないレベルに鍛え直した感じがする。

原作の不満点は主に2点。
1点目は
「映像化すると面白そうなところは端折られている」
これは、端折られたところを積極的に埋めていくことで、見どころ満載のダイナミックな娯楽作品に仕上がっている。長時間の映画だが、原作の中心となる会話劇の部分は大幅に削って、原作にないシーンに時間を割いているので、最後までダレない。

2点目は「そもそも面白くない」
これは1点目でうまく解消されているが、もう1点加えると、原作の古さによるものか、ポールの振る舞いに看過し難いところがあり、それが読んでいて非常にモヤモヤするのだが、ヴィルヌーヴは、ポールの描写をより現代的にして、原作とは性格に大きな違いがある。また、チャニを準主役にして、こちらのモヤモヤを代弁する存在としても描いている。それでもモヤモヤは残るが、ラストに次回作で回収してくれそうな希望を感じさせるシーンで締めくくられていて、ここはうまくやっているな、ヴィルヌーヴは「その気」だな、と思わせてくれる。

フレメンの人々の営みや、文化・文明の描写が事細かに、見るものに信じさせる説得力を持つほどリアルで、ポールが徐々にフレメンの生活に馴染んでいくさまは、まるでこの手のドキュメンタリーを見ているかのよう。ガーニーが使う照明器具や、原初の蓄音器のように円筒にテキストを刻む録音機器、滑空する地雷など、テクノロジーの表現も実に見事。

俳優陣も、この世界に生きる人々だと信じさせてくれる見事な演技。そもそも前作もオールスター映画の様相を呈していたが、今作も惜しみなく名優が続出。あまりに贅沢すぎて、ちょっと笑ってしまうぐらい。そりゃ素晴らしいはずだ。

砂虫の登場シーン、戦闘シーンなど、劇場で見なければ、自分がアラキスに紛れ込んだかのような没入感は得られないだろう。特にドルビーシネマのハイコントラストな映像と空気が震える轟音は、上映終了後も砂まみれの世界から帰りきれないほどの体験を味わうことができる。今度はIMAXで見たい。

前作が好きな方はもちろん、前作に不満を持っている方、原作の「下巻」の映像化ということに心配を抱えている方にも楽しめるのではないだろうか。

【追記】その後、本上映はIMAXレーザーGTで鑑賞。
正直、甲乙つけ難い。
サンドワームが画面を覆う見せ場では、画面最大サイズで轟音と共に視界を埋め尽くすので、このライド感はIMAXならでは。これだけでも観る価値があるかも。前作で気になってたサイズ切り替えも、あまり気にならなかった。最小サイズってこんなに大きかったっけ。意識してないとサイズ差に気づかないほど。
ただ、絵のコントラストはドルビーシネマの圧勝。ちょっと薄暗くなると、途端に画面が真っ暗になって、表情などが全然見えなくなる。絵の密度感やリアリティを感じられるのはドルビーシネマの方が優っていた。論より証拠、終演後に、口の中に砂が混じっているような錯覚を覚えたのはドルビーシネマ。
音響については、好みによって分かれるかも。地鳴りがしたときに画面にかかっているブラーが「あれ、マジで画面揺れてるんじゃね」と思わせてくれるのはIMAX。しかし、体の芯までズシっとくるのはドルビーシネマ。

というわけで、どちらか選ぶならドルビーだが、どちらも観られるなら両方行くのがベスト、といったところ。

あと、2度観て思ったのは、ヴィルヌーヴ監督は、原作と格闘しているのではないかということ。原作通りに行くと、わりとハッピーエンドになっているが、本作はそうではない。途中からチャニが、ずっと疑問と反発を提示し続けている。このチャニの抵抗は、監督の代弁なのではないか。そして監督の代弁は、この2020年代に原作を読んだ多くの人が抱くモヤモヤの代弁でもある。Part2は、Part1では原作を忠実に再現し、従順に見せていた監督の逆襲でもあるのかもしれない。
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