KnightsofOdessa

ウーマン・トーキング 私たちの選択のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
[言語を奪われると沈黙が来て、それは恐怖を呼ぶ] 80点

サラ・ポーリー長編四作目。ミリアム・トウズによる同名小説の映画化作品。小説は2005年から2008年にかけてボリビアのメノナイト・コロニーで起こった実際の出来事を描いている(ボリビアのメノナイトはほとんどがカナダからの移民らしい)。物語の語り部はまだ生まれぬ子供であり、その母親はレイプされて語り部を妊娠したという構造はバフティヤル・フドイナザーロフ『ルナ・パパ』と似ている。三家族が女性コミュニティの未来を決めるというディベート映画なのだが、最初に出ていった一世帯含めた三家族のサンプリングは中々上手い(ルーニー・マーラとクレア・フォイが姉妹であるとパンフレット読んで知った)。消極的残留派も積極的闘争派も積極的退去派も、それぞれが同様に抱えながらも共有できなかった痛みを、身体的接触によって繋げて可視化いくのがとても良い(反対に男との"接触"は殴る/犯すといった暴力行為だけだ)。男性陣の凶暴さは教育の賜物、女性陣の従順さも教育の賜物、であるなら"教育"が鍵だ、というのはスティーヴ・マックィーン『スモール・アックス:アレックス・ウィートル』でも登場。関連して衝撃的だったのは、レイプという言葉を知らなかった結果、共有が出来ずに沈黙することになり、恐怖を呼んだという一節だ。だからこその身体的接触による無言の(或いは聖歌を通した)連帯へと繋がる。

ただ、やはり気になってしまうのはベン・ウィショーの存在だ。彼は強者男性社会に入ることを許されなかった弱者男性であり、地面を歩く女性たちや子供たちに対して多くの場合で納屋の二階に"閉じ込められている"存在であるが、そんな彼に女性陣は未来の子供たちの教育を丸投げして出ていくのだ。ポーリー的な女性コミュニティへの批評であり、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』的な新時代社会批評なのだろう。
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