マインド亀

ウーマン・トーキング 私たちの選択のマインド亀のレビュー・感想・評価

4.0
議論する、記録をとる、生活を守る。民主主義の基本がここに。

●ほとんどが女性の中で、男性としては肩身の狭い思いで映画館で観てきました。

●先ず持って、『アフター6ジャンクション』番組内におけるサラ・ポーリー監督のインタビューコンテンツがとてもためになりました。このサラ・ポーリー監督は元々俳優として『死ぬまでにしたい10のこと』などの作品で活躍。その後監督として素晴らしい成果を残しながらも作品が理解されなかったことに対するショックもあったかもしれませんが、健康上の理由や育児で仕事を離れ、ハリウッドの女性の扱いなどへ不満もありしばらく作品を撮ることも無かった監督が10年以上ぶりに監督・脚本として選んだのがこの作品。
番組内のインタビューではフェミニズムで先進的だと思う作品として監督が挙げた作品が、スティーブン・スピルバーグの『フェイブルマンズ』でした。意外性もありますが、奔放な母親の行き方を認めるスピルバーグのその視線は、そう言われてみれば確かに先進的で素晴らしいものに感じます。

●そんな監督の撮った作品だからこそ、私を含む世の男性にとってはとても居心地の悪い作品になるかもしれません。特にこの世界観は、まるで中世の歴史映画のようですが、実は2010年の現代で、まさに今の我々の生活と地続きという他人事ではない絶望感を感じさせる一作でした。実際に映画館は女性で満席で、男性である私が居心地が悪く感じるくらいでしたが、逆にこの映画を映画館で体験することで、まだまだ圧倒的に男性が優位な日本社会における自らの価値観を戒めとともに変革していかないといけないと考えることができました。

●この作品の舞台は「メノナイト」という、現代社会との交流を断絶し、自給自足と独自の宗教で中世のような生活を営むコミュニティですが、そこでは完全に男尊女卑社会。女性たちは読み書きすら教えてもらうこともない社会です。
更に卑劣なことに、女性を薬で眠らせ、集団レイプが歴史的にずっと行われてきました。それらは今まで悪魔のしわざとして宗教的な解釈のもとに隠蔽されてきましたが、ある日その犯人が捕まったことにより、女性たちが男性が不在の二日間で今後どうするかを話し合うというストーリーです。犯人が捕まるまでをサスペンス的に描くのではなく、本作は、男性たちの犯罪を知ってからこの村で、男性とどう対峙するかの会議の様子だけを映し出すワンシチュエーション“会議”映画です。
会議映画と言うのは、よくあるのが少数が多数をひっくり返す爽快な筋書きが多いように感じますが、この映画では、どう考えても、女性にとってどれをとっても割と地獄、という「村に残る」「戦う」「村から出る」という三択を、議論に議論を尽くしてそのなかでも納得できる最良の選択を選ぶ、という民主的な話し合いが行われます。
この会議におけるサスペンス性は、男性が帰ってくるまでのタイムリミットと、一人の男性が帰ってきた時の得も言われぬ恐怖感くらいですが、この会議のメインはサスペンス部分ではなく、主に、「逃げる」か「戦う」かを、全員のトラウマの乗り越え方とともにどう選択するか、そして何歳までの子供たちを連れて行くかどうか、などをとても理想的で民主的な議論の仕方で会議を進めるところにあります。
これはとても新しい会議劇に感じましたし、会議を中断して一旦洗濯や食事など家事に戻るところが、家事のみを生活の中心に置いた女性たちのリアルさを感じることができました。
なかなかこういった作品は無いですよね。
採択方法は、三択を代表する3組の家族で話し合い、多数決で決めるのですが、途中ではヒステリックな口喧嘩も発生しますが基本的にはお互いが納得できるよう議論を尽くします。そして目の前のことだけでなく後世のことも考え、男性の書紀を迎え議事録をしっかりと取り、男性からの意見も聞く時は聞く。こんなに民主的で、なんなら現代の政治で完全になおざりになっているところをしっかりと彼女たちはやってのけるのです。

●下手すればとても退屈になってしまうかもしれない題材ですが、そこはサラ・ポーリー監督の手腕でしょうか。この舞台の生活をしっかりと映し、合意を形成するまでのそれぞれのキャラクターの立ち位置がどう変化していくかの多層的な演出も素晴らしい。今後もたくさんこういった作品を撮り続けて、社会の固定観念に風穴を開けてほしい、そう思える重要な監督だと思います。
そしてこの作品をブラピの「PLAN B」に持ちかけサラ・ポーリーに依頼するというフランシス・マクドーマンドのこのプロデュース力、何?「村に残る」選択をする女性をあえて演じているのですが、演技力のみならずプロデュース力も最強クラスですね。
また、ルーニー・マーラとクレア・フォイという、リスベット・サランデルを演じた2大俳優の共演も見ものです。
我々男性にとっては、とてもヒリヒリと痛みを感じる作品ですが、男性こそ観たほうが良い作品だと思います。是非観てください!!
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