櫻さんの映画レビュー・感想・評価 - 6ページ目

ポネット(1996年製作の映画)

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いっぱいの涙を溜めたその大きな目では世界の全ては見えていなくとも、ずっと夢の中に佇むことを許さない現実の厳しさに混じった、ぼおっとした光のことを見つめている。あまりにはやすぎた母の死と、幼いながらに対>>続きを読む

はちどり(2018年製作の映画)

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繊細で静謐だけど激しい脈動を感じた。この世界をうまく飛びまわるには、暗黙のうちに決められた順序と法則があるようだけど、それも脆く崩壊してしまうのだと知ってしまった季節。

世界は手を伸ばしても届かない
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若草物語(1994年製作の映画)

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実は1994年版のこの4姉妹がいちばんしっくりくる。メグもジョーもベスもエイミーも、想像の中から飛び出してきたみたい。皆、それぞれの個性があるのに、ぎゅっと肩を寄せあって手紙を読むところは同じ血をひい>>続きを読む

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(2019年製作の映画)

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「わたしの」は、もちろん私のだし、そこにいるあなたのだし、電車で窓際に立ってた女子高生とか、疲れて寝てたお姉さんや小さな子を連れていた女性のことだったりするのだと思った。この世界に生きていて、そんで同>>続きを読む

その手に触れるまで(2019年製作の映画)

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大人たちはいつ自分の正しさの指標を見つけ、その手に握りしめていようと決めたろうか。毎年、毎日、毎時間あるいは瞬きのたびに更新され、ある時決めた正しさははかなくも手から零れ落ちてしまうのだけれど、また探>>続きを読む

デッド・ドント・ダイ(2019年製作の映画)

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死者は死なない、そう歌う声が意味深に響く。私たち人間が消滅するのなら、こんな風に自ら生か死かさえも分からないまま、未練がましく欲にとらわれ続け、のそのそと少しずつ終わっていくのかもしれない。生きていて>>続きを読む

わたしは、ダニエル・ブレイク(2016年製作の映画)

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この世界は理不尽に誰かを踏みつけながら、ぼとぼとと大勢の尊厳を零しながら、すごいスピードで回り続けている。個人の特性や繊細な事情なんか無視した、マニュアルに支配された公正の名の下で。私はこういう映画を>>続きを読む

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)

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脳内でふくふくと広がっていく夢は、どこまでも繋がっていて、どこへでも行けて、何でもできる魔法にかかれる。厳しい現実よりもやさしく、自由に息ができた。どうか醒めないでほしい。できることなら、永遠にここで>>続きを読む

残菊物語(1939年製作の映画)

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月光に浮かんだ水墨画のように、奥ゆかしく動く人の影。そのか細くやさしい声、その目線、その会釈、ひとつひとつの所作がうつくしくて見惚れてしまう。人のうんと澄んだ部分が表れていると思えて嬉しかった。真の想>>続きを読む

霧の中の風景(1988年製作の映画)

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夢の中なら近く、現では気が遠くなるほどに果てのない旅。ただ静寂をつくりに降りてくる雪は息を白くし、凍える身体を寄せ合うふたりを、汽車はがたがたと揺らす。憧憬を抱くその人は、まるで物語の登場人物のようだ>>続きを読む

隣の女(1981年製作の映画)

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わからない、とずっと観ながら思っていた。やっとつくった家族がいるのに、どうして過去を取り戻すように恋に溺れてしまえるのだろう、と。恋は人を恥ずかしげもなく子供にするらしいけど、あの主人公の妻のようなし>>続きを読む

今日もまたかくてありなん(1959年製作の映画)

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いい人だ、と言ったあなたが見ていたのが、わたしの上澄のきれいな蜜だったとしても。

過去を思い返して、あの時のあの判断は正しかったと胸を張れることなんて、きっと指折り数えてもまだ指が残るくらいに少ない
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羅生門(1950年製作の映画)

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真実は人の数だけあるし、見栄のためなら嘘もつく。あの豪雨の中、羅生門に集まった三人が、私の中にそっくり存在しているように思える。何が真実だか判らないと顔を歪ませ、懐疑心に頭を侵略されそうになるし、それ>>続きを読む

ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)

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言葉を身体の奥底に沈ませ、泡沫になる前の感情を、切ないほどにうつくしい旋律を、海を眠らせるように奏でる。言葉はあまりにはっきりと存在してしまうから、発するたびに繊細な機微は削ぎ落とされてしまう。鍵盤は>>続きを読む

アイ・ウェイウェイは謝らない(2012年製作の映画)

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個と個は共鳴し合ったりぶつかることはあっても、統合することはできないのだと思っている。皆ひとつの身体と脳、それぞれ異なる感受性と思想を持っているという差異があるからだ。ほんとうなら生を受けた瞬間から、>>続きを読む

ロスト・ハイウェイ(1997年製作の映画)

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この世は多くを知らないうちが花。知ってしまえば果てのない悪夢を彷徨うことになる。平穏はなんて脆いのかと頭を抱える暇もない。自分のことなど自分が最も分からないし、脳の中は宇宙のように得体が知れない。自分>>続きを読む

ブルーベルベット(1986年製作の映画)

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覗いた小さな穴から広がっていた悪夢。
何かが起こってしまったのを目撃したら、それ以前には戻れない。一度脳に刻み込まれてしまえば、忘れることはあっても消すことはできない。脳の奥に置き去りにされたそれは暗
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エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ(2018年製作の映画)

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ケイラと丁度同じ歳くらいの頃、どこにも馴染めないでいる自分が不良品みたいだったから、果てのない洞穴の闇にたったひとりで顔を伏せて座っている心地でいた。それでも、眩い陽光ではなくていいから、光を見たいと>>続きを読む

朱花(はねづ)の月(2011年製作の映画)

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愛おしい、あの人が愛おしい。そう、恋というのは、このくらい重いものだったよ。そして人を狂わせる。会いたいのに会えないことをひとり哀しみ、肉体よりも魂をふかく想う。それ自体が自分ではどうにもできない事象>>続きを読む

天才たちの頭の中~世界を面白くする107のヒント~(2019年製作の映画)

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子どもの頃は皆、無意識のうちに創造的だった。大人になっていくにつれて個としての自分を多数に溶けこませようとしたり、コンプレックスが芽生え型にはまろうとし、その創造性を失ってしまう。たとえば独裁者が抑圧>>続きを読む

フラワーズ・オブ・シャンハイ(1998年製作の映画)

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人は夢のようなものらしい。いつも確信はないのだけれど、時々納得してしまう時間に遭遇する。目蓋を閉じなくとも、私は自らを夢の一部として外界に溶かしながら、他者としてその境目をなくした自分を見ているような>>続きを読む

暗くなるまで待って(1967年製作の映画)

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暗くなるまで待って。あの人が暗闇に慣れる前に、あなたは私を見つけ出して。聡明さはナイフよりも強い。日常は簡単に壊されてしまうし、良心の顔をした悪意はそこらじゅうに転がっている。

家族ゲーム(1983年製作の映画)

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終始、騒々しい。基本的な周波数が異常。生活が過剰である。というのは、本作において褒め言葉に等しい気がする。理性によって抑制してきたさまざまなギアを、よいしょっと振り切って見せられた感覚だ。そうなるとほ>>続きを読む

都会のアリス(1973年製作の映画)

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物語というのは、光の粒子と闇の粒子の集まりだ。重なり合ったり、仲良く隣り合ったりして、風に揺れる金色の髪の毛を見せたり、怒っているのに口元が少しだけ弧を描いている様などの機微を浮かび上がらせる。手触り>>続きを読む

(ハル)(1996年製作の映画)

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「はじめまして」を言えるまでの長い長い時間。淋しいとも違うぽっかりとした喪失。哀しみに溶けた横顔。サイレントでゆっくりと交わされる画面越しの言葉たちは、ほんのりと桃色を帯びている。会ったことはないけれ>>続きを読む

テルマ&ルイーズ(1991年製作の映画)

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電車に乗っていて身体に触れられたり、男のスマホのカメラがこちらを向いているのに気づいてしまった時、道を歩いていると初対面なのにやけに馴れ馴れしく男が話しかけてきた時など、女という性がただ重荷でしかなく>>続きを読む

欲望の翼(1990年製作の映画)

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淋しさが透けて見えてしまう人って、なぜこうも濡れているのだろう。ずっと泣いているみたいだからだろうか。生と死というあらかじめ決められた枠の中でしか、私たちは踊り回ることはできない。この世界はあまりに広>>続きを読む

さびしんぼう(1985年製作の映画)

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幼い頃夢見た大人になれないのと、初恋が叶わない確率はきっと同じくらいだ。淡雪がすっと溶けて消えていくみたいに在りし日の恋情が思い出の一片と化し、時が経って忘れてしまった顔をしていても、脳の中のいちばん>>続きを読む

海街diary(2015年製作の映画)

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居場所という言葉と距離を置きたくなってしまうのは、生きているうちはずっと借りぐらしなのだとどこかで思っているからだろう。この人の傍では我慢せずに泣くことができたり、客観視せずに心から笑えるなと感じられ>>続きを読む

ブエノスアイレス恋愛事情(2011年製作の映画)

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街の雑踏は無機質な建物と同じ温度で通り過ぎていきながら、いつもつめたい風を吹かせている。横を通っていく人の顔など次の瞬間には覚えていないし、前を向いて歩くことも少なくなった。触れもしないのにずっとつい>>続きを読む

海辺のポーリーヌ(1983年製作の映画)

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無邪気にふりそそぐ陽光だけ、変わらない姿で浜辺を光らせた。認識の差異はこんなにも不協和を併発させ、愛は語るだけ夢のようにつかめない。きれいなものならそこら中にあるのに、理想と少しずれたものばかりに惹か>>続きを読む

HOUSE ハウス(1977年製作の映画)

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すきな漫画に「女はね。血なんか怖くないのよ...だって毎月血を流すんですもの。」という台詞があるけれど、怖いのは血の海なんかではない。本当に怖いのは、取り残されることなのだと思う。果たされなかった約束>>続きを読む

あとのまつり(2009年製作の映画)

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「忘れたら、またやり直しだ」...「はじめまして」
忘却することに対して恐れよりも、私は救いを感じているのだと思う。ふたりは風に舞う風船のようだった。

少女ムシェット(1967年製作の映画)

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かろうじて心象風景を照らすいくつかの蝋燭の火さえ、ひとつ、またひとつと次々に消されていく。灰色の煙も見えなくなるまで。明日があるとかきっと良くなるとか、おまじないみたいに希望を言葉にしても、全て戯言に>>続きを読む

幸福なラザロ(2018年製作の映画)

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幸せは一瞬だけ身体を包んでから去っていく風のようなもので、気づいたら俯きつつ遠のいては回っているのだと、ある曲を聞いてからずっと思い続けている。震わされるように足を止めて、耳を傾ければ聴こえたその音。>>続きを読む

希望の灯り(2018年製作の映画)

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使い古しの電球みたいな暮らしを照らしていたのはいつも、あなたよ消えないでいてと願う気持ちだった。話して聞かせてくれる言葉から大切そうなことを抽出し、吟味して私が言葉を返しても、全て伝わってその通りにず>>続きを読む