櫻

霧の中の風景の櫻のレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
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夢の中なら近く、現では気が遠くなるほどに果てのない旅。ただ静寂をつくりに降りてくる雪は息を白くし、凍える身体を寄せ合うふたりを、汽車はがたがたと揺らす。憧憬を抱くその人は、まるで物語の登場人物のようだった。賑やかな宴の隣にある死のにおい。現実の厳しさと容赦のない痛み。通りすぎる楽しい時間の刹那と別れ。年を重ねるうちにひとつひとつ知っていけばいい沢山のこと。この世の混沌。そうしてまだ見ぬ存在に語りかける、届くあてのない手紙は増えていく。霧の朝に浮かんだふたりの像は、影おくりして空に映したさいごの残像かもしれない。私はこの光に包まれた白い風景を、知っている気がした。
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